北欧から見た日本政治「決定のテーブルの形が違う」

聞き手・曽田幹東
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 4年に1度の秋田県知事選が始まり、たすきをかけた候補者の選挙カーが街中を走るようになった。九つの市町長選も近く始まる。私たちは選挙に何を託し、どんな意思表示をできるのだろう。視点を海の外に移して、ノルウェーで10年以上暮らす秋田市出身のジャーナリスト鐙麻樹(あぶみあさき)さん(36)に北欧の選挙事情を聞いた。

 ――北欧の政治の特徴はなんですか?

 議員構成の多様性です。ノルウェーでは首相は女性。閣僚の約半数が女性です。性別だけでなく年齢も幅広い。18歳になる年から議員になれるので、地方議会には高校生の議員もいます。北欧では「議会の風景は、社会を反映する鏡でなければいけない」と言われます。日本は議員の大半が高齢の男性。若者や女性の求めていることが、政治に反映されにくい構造になっています。

 ――多様な議会構成になれば、政治がより身近になるかもしれませんね。

 日本の若者の投票率の低さがよく問題視されますが、私は当たり前だと思います。日本人は自分の1票で何かを変えられると思っている人が少ない。それは「おじさん」以外の人が、物事を決めるテーブルに座ってなかったから。国会など政治の意思決定の場のほとんどを高齢の男性が占めている。自分たちが何を求めたとしても、決めるのは「おじさん」。それでは自信も自覚も持てないよって思います。政治がひとごとになります。

 比喩的に言いますが、北欧の「決定のテーブル」は丸く、日本は長方形なんです。日本は上座と下座があって、上座に座る偉い人の意見ばかりが通る。北欧は丸いテーブルで、座った人みんなに発言権があるイメージです。丸いテーブルにいろいろな人が座れたら、「選挙に行こう」と言わなくても、自然と投票に行くようになります。「自分の力で政治が動く」と思えるようになるからです。

 世代によって関心の高い政策テーマは違います。たとえば若者は環境政策に敏感です。ノルウェーは今、世界でもっとも電気自動車が普及していますが、それも若者の政治参加が影響していると思います。

 ――日本では日常的にあまり政治の話をしませんね。

 私は大学まで日本で暮らしましたが、義務教育では暗記ばかりで、自分の政治的な意見を求められることはまずありませんでした。でもノルウェーでは積極的に議論をします。小学校や中学校でも政治家を招き、政策の違いを語らせます。学校で政治の議論をする練習ができています。

 高校ではより本格的に、政党を選ぶ模擬選挙も行います。各政党に所属する10代、20代の青年が教育や環境問題を取り上げ、自党の政策をわかりやすい言葉で伝えます。時には政党の代表も参加し、高校生の質問に答えます。全国の高校で実施し、その結果は全国ニュースで報じられるほど注目を浴びます。数年内に実際に投票に行く世代なので、この世代の考えを知ることは重要なんです。

 また、日本では「中立的」であることをいつも求められます。政治的なことを言うと「偏っている」と非難されがちです。私はそれは他人の発言を封じる「呪いの言葉」だと思います。政治に関心をもっているのは自分の日常生活、暮らしに関心をもっているのとイコールです。政治的な意見がないというのは、自分の暮らしに意見がないのと同じことです。

 ――選挙運動のあり方も違うのでしょうか?

 ノルウェーでは地方選挙でも、有権者は政党に1票を投じ、勝った政党が知事や市長を選びます。

 投票日の約1カ月前になると、駅前には各政党の「選挙小屋」が並びます。投票先を迷っている人はそこに行き、政党のパンフレットを集めたり、政党のスタッフと話をして情報を集めたりすることができます。活気があって、お祭りのような雰囲気になります。

 ――それは良いですね。選挙カーで候補者の名前を連呼するのが日本の選挙のイメージですが、ノルウェーの方が、有権者は投票先の判断材料を持てそうです。

 北欧には選挙カーはありません。反対に日本に選挙小屋がないことをこちらで話すと、「どうやって政治の話をするの?」「どうやって選挙を盛り上げるの?」と不思議がられます。

 候補者の違いを伝えるという意味では、報道機関の役割も重要です。ノルウェーの新聞は、各候補者の政策アンケートの回答を紙面でグラフィカルに示すほか、ウェブサイトで「ボートマッチ」を実施します。ボートマッチとは、サイト上で数十の質問に答えると、自分の考えに近い政党や候補者を教えてくれるもので、ゲームのような感覚で楽しめます。私も選挙のたびにいつも利用しています。

 ――故郷・秋田に期待することはなんですか?

 秋田の人と話すと、「こんな小さいところに何ができるんだ」って思っているように感じます。首都・東京を上座、自分たちを下座と思い込んでいる。

 北欧の小さい町はすごい元気です。小さくても世界のモデルになれるという自信がすごい。

 秋田は高齢化が進んでいます。それは課題だが、チャンスでもあります。ほかの地域でも今後高齢化は進むのだから、新しいチャレンジでほかの自治体、世界のモデルになれる。思い込みを捨てて、新しいアイデアに取り組んでほしいです。(聞き手・曽田幹東)

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