動かない浜岡原発 東日本大震災から10年の道のりは

木村俊介
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東海の防災を考える

 南海トラフ巨大地震の想定震源域にある中部電力浜岡原発静岡県御前崎市)は、2011年3月に東京電力福島第一原発の事故が起きた後、停止要請を受けて運転を止めた。中部電は地震や津波の対策を実施。新規制基準への適合審査を申請しているが、今も停止した状態が続いている。(木村俊介)

 「想定される東海地震に十分耐えられるよう、(略)中長期対策が完成するまでの間、すべての原子炉の運転を停止すべきだと判断した」

 菅直人首相(当時)が浜岡原発の運転停止を要請したのは、東日本大震災の発生から約2カ月後の11年5月6日だった。東海地震は、本州の南にある南海トラフの東側部分で起きるとされる地震だ。

 太平洋に面した浜岡原発は当時、1、2号機は運転を終え、廃炉に向けた作業に入っていた。3号機は定期検査中で、4、5号機は稼働中。要請を受け、すべて同14日までに運転を停止した。

 福島第一原発では、地震による津波に襲われ、全電源を喪失。注水機能も失われ、格納容器が壊れる――という経緯をたどった。

 中部電は震災後、それらに対する安全対策、リスク低減策を進めてきたという。

 津波対策としては、海に面する敷地の南側に「防波壁」をつくった。当初は高さ18メートルだったが、高さ22メートルに強化。また、敷地の東西に盛り土をつくった。敷地内に水が入り込んでも、建物の中に影響しないよう、扉を改良するといった対策もした。地震対策として建物内の補強もしたという。

 電源確保のため、高さ40メートルの場所にガスタービン発電機を6台設置し、交流電源車を配備。原子炉内に注水する手段を確保するため、注水ラインの耐震化や、注水ポンプ車、ホース車などを用意したという。

 13年7月に原子力規制委員会は新しい規制基準を策定。中部電は14年2月に4号機の適合性審査を同委員会に申請した。翌15年6月に3号機も申請しているが、4号機の審査が優先的に進んでいる。今年2月までに110回の審査会合があり、地震動や津波などについての議論が続いているという。

運転停止続く余波は

 10年間の停止によって、稼働中の浜岡原発の運転をしたことがない社員も増えている。

 中部電によると、火力発電所を使い、ベテラン運転員の指導で制御室での操作訓練をしているほか、すでに稼働した国内の原発に社員を派遣するといった取り組みも実施しているという。

 南海トラフ巨大地震の想定震源域に立つ浜岡原発では、もともと地震や津波への備えに力を入れてきたが、福島第一原発事故について、社内には「ここまでとは思っていなかった」「ステーションブラックアウト(全交流電源喪失)には驚いた。そんなことが起きるのか、と」といった声もある。

 浜岡原発の再稼働について、中部電は「引き続き、新規制基準への審査に真摯(しんし)に対応し、適合性確認を早期にいただけるよう最大限努力していく。防災体制の整備や訓練の充実を図り、安全性やリスクの低減について、地域と社会の皆様への丁寧なご説明に努めることで、一層、信頼いただける発電所を目指していく」と説明している。(木村俊介)

住民避難など課題も

 浜岡原発の敷地内の対策は進んできたが、敷地外は「まだまだ」と言える。

 原発事故後、原子力災害が起きた際の対策重点区域として、浜岡原発周辺ではおおむね5キロ圏内の「予防的防護措置を準備する区域(PAZ)」と、おおむね5~31キロの「緊急防護措置を準備する区域(UPZ)」が設定された。放射性物質が放出される前であっても、原発の状況次第で避難の準備や安定ヨウ素剤の服用などの対応をする。

 静岡県によると、20年4月時点の両区域の住民は約83万人。県の避難計画の対象は少し広げて約93万人という。住民の避難手段の確保のほか、医療機関や社会福祉施設の避難計画の策定といった課題が残る。

 福島第一原発事故では、放射性物質が大量に放出され、風に乗って東日本の広い範囲に降り注いだ。

 浜岡原発でも、事故が起きれば影響は30キロ圏内にとどまらない。風向きなど天候によっては、放射性物質が首都圏に流れる可能性もある。

【浜岡原発のこれまで】

1967年   中部電力が静岡県の旧浜岡町(現・御前崎市)に原発建設を申し入れ。町は「条件付き受け入れ」を決定

 71年   1号機着工

 76年   1号機が営業運転開始

 78年   2号機が営業運転開始

 87年   3号機が営業運転開始

 93年   4号機が営業運転開始

2005年   5号機が営業運転開始

        4号機で、燃料にプルトニウムを使う「プルサーマル」計画を公表

 08年   1、2号機の運転終了と6号機を建設する計画を公表

 09年   1、2号機の運転終了、廃炉へ

 11年3月 東日本大震災

   5月 菅直人首相(当時)の要請を受け、全号機停止

   7月 津波対策の実施を決定

 12年12月 津波対策の強化、重大事故対策の実施を決定

 13年7月 原子力規制委員会による新規制基準施行

 14年2月 4号機の適合審査を申請

 15年6月 3号機の適合審査を申請

2021年2月 静岡県と御前崎市による津波対策工事や追加工事の点検・確認が100回に

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