わざと負けたガンちゃん、いま描くわけ 早乙女勝元さん
松本紗知
1945年3月10日、米軍の爆撃機が東京の下町一帯を襲い、一晩で10万人が亡くなった。この東京大空襲を生き延び、戦争体験を語り継いできた作家の早乙女勝元さん(88)が、紙芝居「三月十日のやくそく」(絵・伊藤秀男、童心社)を刊行した。「書くこと、話すことでは、戦争を防げないのは事実」と語る早乙女さんが、それでも、この紙芝居に込める思いとは。
かつもとじゃなく「まけもと」だ
紙芝居は、早乙女さんの実体験が元になっている。空襲が日ごとに激しくなるなか、3月10日の未明、見たことのない数の爆撃機が空を埋め尽くし、町は炎に包まれる。逃げ惑うさなか、ぼくは友人のガンちゃんとある約束を交わす――。
ガンちゃんは岩男(いわお)君といって、強くて優しい少年だった。紙芝居は、勝った人から抜ける「負け抜き相撲」の場面から始まる。負けてばかりのぼくは、先生に怒鳴られながら、勝つまで相撲を取らされ続ける。
「子どもを鉄のように強くしなければ戦争には勝てない、と。そういう時代でした。私は臆病者で泣き虫で、先生から『かつもとじゃなくて、まけもとだ』と言われるような少年でしたから。学校は大嫌いでした」
そんなときガンちゃんは、本当は強いのに、うまく負けてくれた。
「それを見抜いた先生に、ポ…