五輪組織委員会の女性理事に対する「みんなわきまえておられて」という発言などで、森喜朗・前五輪組織委会長への批判が巻き起こり、ツイッターには発言の直後に「わきまえない女」というハッシュタグが登場しました。森氏と同世代で、女性の権利や自立を訴えてきた評論家の樋口恵子さん(88)に「わきまえないことの大切さ」を聞きにいくと、意外にも「とんでもない」と言います。なぜでしょうか。

 ――樋口さんは「わきまえない女」として発信し続けてきた人、という印象があります。

 「森さんのせいで『わきまえること』が悪いことのようになっていますね。確かに、わきまえて発言を控えることは、遠慮や忖度(そんたく)につながります。でも、私がここまで評論家として生き延びてきたのは、ひとえに一定の『わきまえ』があったからです」

 ――どのような「わきまえ」でしょうか。

 「今も忘れられないのは1970年代、PTAの全国大会に、東京都の社会教育委員として参加した時のことです。私は講師の紅一点。PTAは、母親が下働きさせられて会長は男性っていう古い体質だったんですよ。全国大会は男性の会長が多く集まるので『母親がのびのび発言できない』という理由から、母親用の分科会が設けられたんです。ひどい話でしょう」

 「そこに『助言者』としてPTA役員なんかが3、4人いたんですね。全員男性です。会場が女性たちの発言で盛り上がっている時に、1人の助言者が挙手も起立もせずに、腕組みして『今のお母さんの発言はだねぇ』と不規則発言を始めたんです」

 ――見下すような態度で、ですか。

 「しかも、マイク係の母親がその男性の前にひざまずいてマイクを向けた。もう、ぶち切れそうでした。その時『あなたの態度はおかしい』と言いたかったけれど、ぐっとこらえました。私はそこそこ有名人で、唯一の女性委員として注目されていました。ここでけんかでもして大騒ぎになれば、次は委員には任命されないでしょう。そうしたら、何もできないまま終わってしまう。屈辱でしたよ。男女平等なんてつくづくウソだと思いました。我慢して、のちにいろいろ発言してきました」

 ――就職の時から「女」で苦労されたそうですね。

 「新聞社で『女性は去年3人と…

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