牛のふん尿から液体燃料 CO2排出しない世界初の技術

長崎潤一郎
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 オホーツク海沿岸の北海道興部町大阪大学などが、乳牛のふん尿を活用した新たな産業育成に乗り出す。ふん尿から発生するバイオガスを世界初の技術で液体燃料のメタノールなどに変換し、二酸化炭素(CO2)を出さない「脱炭素」のエネルギーとして地域で利用する構想だ。酪農が盛んな道内各地に広がる可能性がある。

 興部町と阪大、産業ガス大手のエア・ウォーター北海道(札幌市)、岩田地崎建設(同)が9日、札幌市内で記者会見し、町内で2年以内に試験プラントを建設すると発表した。興部町と阪大は2019年に連携協定を結んで共同研究を進めてきたが、民間企業2社を加えて「オール北海道」で実用化に踏み出す。

 町内に約1万頭いる乳牛のふん尿をすべて使ってメタノールなどを生産した場合、町内の公共施設や水産加工施設で使うエネルギーの全量と、乳業工場の3分の2のエネルギーをまかなえる規模になるという。

 試験プラントでは、阪大の大久保敬教授(光有機化学)らが世界で初めて開発した技術を活用する。バイオガスに含まれるメタンを特殊な液体に溶かして紫外線を当て、メタノールとギ酸に変換。常温・常圧で作業できるうえ、CO2を排出しない。メタノールの変換効率も従来の1%から14%(ギ酸は従来の0%から85%)と大幅に向上し、「無駄なく使い切れる」(大久保教授)という。

 興部町では、ふん尿を活用したバイオガス発電も手がけるが、再生エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)による売電期間の終了後にバイオガスをどう有効活用するかが課題だった。ためることが難しい電気ではなく、液体燃料のメタノールやギ酸に変換して保存できるようにして、「脱炭素」の街づくりにつなげる構想を描く。

 メタノールの具体的な活用策としては、重油の代わりの燃料として工場で使ってもらうほか、燃料電池に供給して発電し、公共施設などの電気をまかなう。公用車や生乳の運搬車両を電気自動車(EV)にすることも検討している。ギ酸は牛の飼料の添加物に利用できるほか、次世代のエネルギーとして注目される水素の原料にもなるという。

 量産でコストが下がれば、合成繊維や塗料、農薬など様々な製品の原料にもなるメタノールの外部への販売も検討する。大久保教授によると、メタノールは全量を輸入に頼るが、国内の乳牛のふん尿をすべて使えば、輸入量の2割を代替できるという。

 24年度をめどに試験プラントを増強して実用化し、30年度以降は興部町以外の道内外での展開もめざす。硲(はざま)一寿町長は「酪農は著しい規模拡大をみせているが、発生するふん尿の処理が課題だ。研究がさらに加速し、町だけでなく、北海道全体の発展や、日本の産業にとって重要な役割を果たしたい」と語った。(長崎潤一郎)

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