「トランプ氏が来ても静か」フロリダで政治活動を再開

フロリダ州パームビーチ=園田耕司

 支持者を扇動し、米連邦議会議事堂を襲撃させたとして弾劾(だんがい)訴追された、トランプ前米大統領の弾劾裁判の審理が9日、上院で始まる。退任以降、フロリダ州の邸宅で暮らすトランプ氏は支持者からの根強い人気を背景に、少しずつ政治活動を再開している。ただ、共和党内では、「ポスト・トランプ」の路線をめぐる対立が表面化しつつある。(フロリダ州パームビーチ=園田耕司

 「トランプが来ても静かなもんだよ。ゴルフでも楽しんでいるんじゃないか」

 フロリダ州パームビーチにある、高級会員リゾート「マール・ア・ラーゴ」近くのビーチで、日光浴をしていた高齢の白人男性は笑った。トランプ氏は1月20日に大統領を退任してワシントンを離れてから、ここで暮らす。表だっての活動はしていないが、8日には近くにある、自身の経営するゴルフ場で目撃された。

 政治活動も少しずつ再開している。1月25日に事務所を開設し、メディア向けの声明などを発表してきた。2月8日には、弾劾裁判を前に、弁護側の詳細な主張の書面を公表。襲撃事件を前にした支持者向けの演説内容は「扇動」とは言えない▽元大統領の弾劾裁判を行う権限は上院にない▽弾劾訴追はトランプ氏表現の自由を侵害する――などとして、無罪を主張する方針を示した。

 トランプ氏は大統領に就任するまで、ニューヨークに住んできたが、同市は民主党が圧倒的に強いことも考慮し、拠点をフロリダ州に移したとみられる。退任した1月20日、大統領専用機で到着すると、空港からマール・ア・ラーゴまでの沿道には支持者が立ち並び、「ウィー・ラブ・ユー」と連呼した。パームビーチ郡共和党のマイケル・バーネット委員長は「トランプ氏はニューヨークではもはや歓迎されないと感じたのだろう。その点、フロリダは彼の移住を大歓迎だ」と語る。

 トランプ氏の具体的な行動は地元共和党幹部にも伝わっておらず、直接連絡を取り合う相手は、マール・ア・ラーゴのパーティーなどを取り仕切るケータリング・マネジャーだけという。バーネット氏は「我々はトランプ氏のプライバシーを尊重し、あまり負担をかけたくない」と理解を示す。

 議事堂襲撃事件をめぐるトランプ氏への批判についても、バーネット氏は「平和的な集会を呼びかけただけだ」と一蹴。「我々はトランプ氏を支えることで一致結束している」と話す。

 さらに先鋭的な意見を持つ支持者もいる。トランプ氏がパームビーチに到着した際の歓迎集会を企画した慈善団体代表のウィリー・グワディオラさん(63)は共和党内からもトランプ氏の批判が出たことに憤る。「共和党にはもう飽き飽きしている。解散し、新たにトランプ氏を中心とした『愛国者党』を立ち上げるべきだ」と主張する。

トランプ氏との関係は… 亀裂深まる共和党

 共和党内でも、トランプ氏との関係をめぐって意見が対立している。議事堂襲撃事件が起きると、共和党下院ナンバー3のチェイニー議員ら10人が弾劾訴追に賛成。共和党上院トップのマコネル院内総務も、「(弾劾裁判で)どう投票をするか最終判断をしていない」と声明を発表し、有罪とする余地を残した。

 しかし、襲撃事件後も、トランプ氏共和党支持者に人気を誇る。議会専門紙「ヒル」の2月公表の世論調査によると、トランプ氏が新党を結成した場合に加わるかどうかを尋ねたところ、共和党支持者の64%が「加わる」と答えた。

 共和党内では、トランプ氏への批判に反発する動きが出ている。トランプ氏に近い、フロリダ州選出のゲイツ下院議員は1月28日、チェイニー氏の地元、ワイオミング州で異例の集会を開催。「共和党の魂をかけた闘いだ」と訴え、次の選挙でチェイニー氏を倒すよう求めた。同州共和党は6日、チェイニー氏への問責決議を可決した。

 保守系世論調査機関「ノース・スター・オピニオン・リサーチ」のウィット・エアーズ代表は、選挙に向けて共和党の候補を選ぶ予備選で、トランプ氏の影響力が特に発揮されるとみる。「トランプ氏が米国内を飛び回り、自分の応援する候補の予備選に時間と努力をつぎ込めば、大きな効果をもたらすだろう」と語る。

 ただ、多くの共和党議員はトランプ氏の支持者の離反を防ぎつつ、党内分裂を避けたいのが実情だ。下院の共和党議員団は3日、チェイニー氏を党役職から降格しないと決定。投票結果は非公表だったが、米メディアによると61人が降格に賛成し、145人が反対したという。1月28日にトランプ氏と面会し、中間選挙での勝利を目指すと合意した下院のマッカーシー院内総務は投票後、「共和党は大きなテントだ。だれでも招き入れる」と強調した。

 上院でも、表だってトランプ氏と対立する議員は少なそうだ。弾劾裁判で有罪となるためには、定数100の上院で、出席議員の3分の2以上の賛同が条件で、50人いる共和党議員のうち17人以上が「有罪」に回る必要がある。だが、45人の議員は既に「元大統領を対象とした弾劾裁判は違憲」とする動議に賛同しており、トランプ氏が無罪となる公算が大きい。