育休とった男性店長 「示しがつかない」は先入観だった

滝沢卓 岡林佐和
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 男性の育児休業がなかなか広がらない理由には、「男性は仕事・女性は育児」といった性別役割分担の意識や収入減への不安など、様々な要因が指摘されています。なかでも根深い一つが「職場の雰囲気」。それを変えるためのヒントを、男性の育休取得に力をいれる住宅大手・積水ハウスの現場から探りました。

ジェンダー平等に向けた日本の課題の一つ、男性の育休取得推進に取り組む現場を紹介します。記事の末尾には、「選択的夫婦別姓」をテーマに橋本聖子大臣も出演する無料オンラインイベントのお知らせもあります。

 「仕事が忙しくて、(育休は)取れる休みじゃないと思っていました」。積水ハウスの営業職で、今は東京都内の住宅展示場で店長を務める細川昇さん(45)は、約2年前に計1カ月の育休を取るまでの自分を、そう振り返る。

 それまで、長男(7)や長女(5)と休日以外で過ごす時間はわずかだった。通勤に1時間以上かかるため、午前7時半には家を出て、帰宅は早くて午後8時すぎ。専業主婦の妻が、子どもたちを寝かしつけた後だった。

 もちろん専業主婦世帯でも育休は取れるが、2人が生まれた時は取らなかった。長男が生まれたころから展示場の店長を任され、自ら個人向けに営業しながら、部下の仕事も管理するプレイングマネジャーとして奔走。当時、男性店長で育休を取った人は周囲にいなかった。「育休を取って店の営業成績が落ちてしまったら」と不安だった。

転機は「トップダウン」、休みやすい土壌も

 転機は2018年。会社が、3歳未満の子どもがいる男性社員に、1カ月以上の育休を取るように強く勧め始めた。しかも収入減を心配する社員のために、1カ月間は有給にした。きっかけは、スウェーデンに出張した仲井嘉浩社長が、公園でベビーカーを押しているのがほぼ男性だった光景を見たこと。育休をめぐる社内の雰囲気が、「トップダウン」で変わり始めた。

 細川さんは当時、長女が3歳を迎える直前。それでも店長として休むことをためらったが、一帯の展示場を束ねる上司の支店長らが「何でもバックアップする」と、店長業務を引き受けてくれた。育休を最大4分割できる会社の制度も活用。約2カ月の間に、数日~約2週間の育休を小分けにして、休んでいる間の仕事の進み具合を把握しやすくした。

 最大の心配は商談中の顧客への営業を続けられなくなることだったが、以前から2人1組でチームを組む態勢にしていたため、もう一人の担当者にスムーズに引き継げた。チーム化は若手社員の教育が主な狙いだったが、「休みやすい土壌」になっていたことが育休取得にも生きた。

 「売り上げを伸ばそうと言う立場上、育休は『部下に示しがつかない』と勝手に思い込んでいました」と細川さん。育休中は、料理や洗濯をしたり、子どもたちと遊んだりする時間が増えて「腰痛になった」ほどで、家事や育児をあまりできていなかったことを痛感したという。妻からは「子どもが小さい時に、もう少し早く育休を取ってほしかった」と言われた。

 今は、近く育休を取る予定の後輩社員と、育休中の仕事を調整している。「一日中、一緒にいることで、子どもの成長を実感できる時間を大切にして」と伝えている。

低い取得率、背景に性別役割分担意識や労働慣行

 男性の育休取得率は上昇傾向にあるが、19年時点で7・48%にとどまる。昨年末、閣議決定された来年度から5年間の第5次男女共同参画基本計画では、「25年に30%」を目標に掲げた。

 計画は、男性の取得率が低い背景には、男性は仕事・女性は育児といった性別役割分担意識や、長時間労働や転勤などを当然視する労働慣行があると指摘。その結果、女性が育児などを多く担い、働く場での活躍が困難になる場合が多いとして、男性が子育てを担うことは「男女が共に暮らしやすい社会づくりに資する」と指摘している。

 男性の育休取得をさらに進めるため、厚生労働省は今年1月、生後8週までの間に通常の育休とは別に最大4週間とれる「男性産休」の新設を柱とする制度改正案をまとめた。「男性産休」は2回に分割できるため、たとえば妻の出産時と退院後などに分けて休め、通常の育休と合わせて最大で4回まで分割取得できることになる。また、通常の育休中は働くことが原則認められないが、特定の日に重要な会議があるといった理由で取得自体をあきらめずにすむよう、働き手が望めば休業中に一定の仕事をすることも認める。

 さらに、男性にとって大きなハードルとなっている「職場の雰囲気」を改善するため、企業に対し、育休を取れる社員には個別に制度説明や意向確認をすることなどを義務づける。従業員1千人超の大企業には、男性の育休取得率の公表も義務づける。

専門家「国が推進するからではなく、自社の経営課題」

 人手不足を理由に育休取得を渋る職場もあるが、組織開発・人材開発に詳しい立教大経営学部の中原淳教授は「企業は目先の人手不足を理由にして男性の育休に消極的なままだと、男女を問わず採用難に直面して、一層深刻な人手不足に陥る」と指摘する。今の若手世代は、経営層が若手の頃と違って共働き世帯が主流で、夫婦で育児や家事に取り組むため、休みやすさへの関心も高くなっているからだ。

 中原教授は「経営者は、若手から相談を受ける立場の中間管理職に、育休取得は国が推進しているから必要なのではなく、自社の経営課題なのだと『翻訳』して重要性を伝える必要がある」と話す。(滝沢卓、岡林佐和)

第5次男女共同参画基本計画の文言

(昨年末に閣議決定)

●男性が子育てを積極的に行うことは、母親の孤立化を防ぐなどの効果があるとともに、職場における働き方・マネジメントの在り方を見直す契機ともなり、ひいては男女が共に暮らしやすい社会づくりに資する

●男性片働き世帯が多い時代に形成された、長時間労働や転勤などを当然視する労働慣行や固定的な性別役割分担意識を背景に、家事・育児・介護などの多くを女性が担っている実態があり、その結果、女性が働く場において活躍することが困難になる場合が多い

※文言は抜粋

6日に「夫婦別姓」テーマに無料オンラインイベント

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 どのような議論があり、実現には何が必要なのか。橋本聖子・男女共同参画相や枝野幸男立憲民主党代表らを各回のゲストに迎え、3回シリーズで朝日新聞の記者と行方を考えるオンラインイベント「#いつになったら選べますか 夫婦別姓」を6、21、27日に開きます。参加無料。ウェブ上(http://t.asahi.com/wjo9別ウインドウで開きます)からご応募下さい。QRコードからでもアクセスできます。

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