被服支廠 ラジオで考える 広島からネット配信

比嘉展玖
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 保存・解体問題に揺れる広島最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(広島市南区)について考えるラジオ番組を、広島の3人がネット配信している。「Hihukushoラジオ」。毎回ゲストを招き、建築や芸術、文学など様々な視点から発信する。

 今月16日朝、広島市中区のカフェ「ハチドリ舎」の片隅でスマートフォンを前に収録が始まった。この日のゲストは、元広島大教授で日本近代史が専門の河西英通さん(67)。河西さんは広島の軍都としての歴史を紹介し、「軍事と市民の日常が隣り合わせだった生活の跡を残す建物は貴重だ」と語った。戦後に多くの被爆建物が取り壊されたと指摘し、「被服支廠など点在する被爆建物を残すことで、被爆した広島の街を『面』として捉えることができる」と保存の意義を説いた。

 番組は約1時間。「広島文学資料保全の会」代表の土屋時子さん(72)が番組の構成を考えている。土屋さんは「より広くて深い知識を提供し、保存の是非を議論する土台を作りたい」と話す。シンガー・ソングライター瀬戸麻由さん(29)が進行役を、音楽家の河口悠介さん(24)が編集を担当。被服支廠を題材にした文学作品なども紹介する。

 きっかけは、県が一昨年12月、所有する3棟のうち1棟を保存し、2棟を解体する方針を示したことだ。被服支廠の保存活動をしていた3人は当初、勉強会などを予定していたが、コロナ禍のためラジオ配信を思いついた。「『ながら聞き』もできるのがラジオの良さ」と瀬戸さん。河口さんは「ラジオだからこそ言葉に重みが出る」と話す。

 昨年6月にスタートし、12月末の配信は再生回数が1300回(今月27日現在)を超えた。県の担当者からも「聞いています」と言われ、土屋さんは「動きが変わるきっかけになれば」と喜ぶ。「広島は『平和都市』という言葉に安住している。被爆者がいない未来に被服支廠を残せるかは、『平和都市とは何か』を考えること。広島の価値観をアップデートする機会になれば」

 河西さんの回は30日にサイト(https://hihukushoradio.jimdofree.com/別ウインドウで開きます)で配信予定だ。

     ◇

 広島市松井一実市長は15日の記者会見で、被服支廠について「利活用策によっては負担を検討する」と述べ、費用負担を検討する意向を初めて示した。

 現存する被服支廠の4棟のうち3棟は広島県が、残り1棟は国がそれぞれ所有している。広島市は1993年に被爆建物の台帳登録制度を設け、民間の所有者には保存工事などの費用を助成してきた。だが、国や県は対象外で、市は被服支廠の保存については「費用負担しないのが大前提」(担当者)という。

 一方で、被爆者の高齢化で「物言わぬ証人」として被爆建物の価値が高まり、広島市は2016年に県や国と「保存・継承にかかる研究会」を設け、被服支廠の保存や活用のあり方を検討してきた。昨年12月には、博物館などとして活用する場合の概算工事費も県から示された。今後の焦点は利活用策に移り、広島市としても本格的に費用負担の検討に入るとみられる。

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