JRの赤字路線に「高校駅」 自治体が費用負担のワケ

本田大次郎 長崎潤一郎
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 高校の目の前にJRの駅を新たにつくる計画が進んでいる。それも費用は地元自治体が負担する。なぜなのか――。

 北海道第2の都市・旭川と日本最北端の稚内(わっかない)を結ぶJR宗谷線。全長259・4キロと東京―名古屋の直線距離に匹敵するが、沿線人口の減少に伴い利用者数は年々落ち込んでいる。

 2019年度は51億円の赤字。経営難に陥っているJR北海道全体の営業赤字(19年度は426億円)の1割超を占める。21年3月のダイヤ改定では、経費削減のために宗谷線の全53駅の2割超にあたる12駅を廃止することが決まった。

 東風連(ひがしふうれん)駅は、旭川市から80キロほど北上した名寄(なよろ)市にある。廃止駅の対象からは外れたものの、1日の乗車人数(13~17年の平均)は22・8人。大半が地元の名寄高校の生徒だが、駅から高校まで線路に沿って北へ約1・5キロ離れていて、歩いて20分ほどかかる。

 その名寄高校と道路を挟んだところに東風連駅を移転し、「新駅」をつくる計画が浮上した。

写真・図版

 名寄市は、高校の前に駅を移転すれば生徒の利便性が高まり、宗谷線の利用者増にも貢献できると考えた。18年の調査で、JRで通学する生徒は67人(隣の名寄駅の利用者を含む)だったが、学校前に駅ができれば新たに利用したいと答えた生徒が冬季だけの利用も含めると52人いたからだ。

 移転費用は名寄市が負担することを前提にJR北海道と協議している。市はすでに20年度予算に設計費として約1360万円を計上。21年度予算案に事業費として数千万円を計上する方向で調整している。21年度中に着工し、22年3月の完成をめざす。新駅の名称は「名寄高校駅」とし、東風連駅は廃止になる見通しだ。

 加藤剛士市長は「通学のほか、部活など学校間の交流でも宗谷線を使ってもらえるのではないか。地元高校の名前がついた象徴的な駅として、地域の人にも愛してもらえる」と期待する。

 名寄市が駅の移転費用を出してまで宗谷線の利用促進をはかるのは、路線自体を存続させるためでもある。

 宗谷線全体の7割を占める名寄―稚内間は、多くの赤字路線を抱えるJR北が「単独では維持困難」とする8線区の一つ。利用者を増やさないと、地域に鉄道がなくなってしまうとの危機感がある。

 ほかの維持困難線区でも、自治体が通学定期券の購入費を一部補助したり、特急列車内で地元の特産品を販売したりと地域ぐるみの取り組みが進む。

 政府は19年12月、JR北海道に21年度から3年間で計1302億円の財政支援をする方針を決めた。自治体に対しても、今回のような利用促進策だけでなく、赤字路線存続のための財政的な負担を求める。しかし、自治体側は「単なる赤字の穴埋めはできない」と反発している。(本田大次郎、長崎潤一郎)

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