第1回業者に託したひきこもりの息子 やせ細り、一人息絶えた

有料記事「引き出し」ビジネス

高橋淳
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 20年に及ぶひきこもりの生活から自立に向けて歩み出したはずの息子が、アパートでひとり、亡くなっていた。残された母(81)は、長男タカユキさん(当時48)の死の理由を今も問い続けている。ひきこもり支援をうたう民間施設に入所するためにタカユキさんが家を出たのは、ちょうど4年前のことだった。

 2人で暮らしていた埼玉県の家に、民間施設「あけぼのばし自立研修センター」(東京都新宿区、2019年12月に破産)の職員ら5人がやってきたのは、17年1月。タカユキさんを「説得」し、部屋から連れ出すためだった。

 母によると、タカユキさんがひきこもるようになったのは26歳のころ。高校卒業後、海上自衛隊に入隊。3年の任期を務めたが、その後就職した会社で上司との関係に悩み、退職した。

 外出を拒むようになり、たまに友人が来ても会いたがらない。市役所や保健所、病院、子どものひきこもりに悩む家族の会……。夫とともに考えられる限りの場所を訪ねて相談したが、変化がないまま年月ばかりが過ぎたという。

 夫は16年、息子の将来を心配しながら他界した。もし私までいなくなったらこの子はどうなってしまうのか。そんな中、結婚して家を出ていた娘がインターネットで見つけてきたのが「センター」だった。

 「自立のプロにお任せください」「就職後も毎日報告を受け、面談を繰り返し(中略)フォローを続けます」――。頼もしい文句が並ぶパンフレット。赴いた説明会で、半年間の「研修費用」が910万円と聞いて驚いたが、「長期化、高齢化するほど解決が難しくなる」と担当者に迫られ、契約した。夫と建てた自宅を売却してまかなうことにした。

 センターからの指示で、職員らが家に来ることはタカユキさんに内緒にしていた。2階の部屋に案内すると、職員の一人が「お母さんは下にいて下さい」。居間で待っていると、「わーっ」という泣き声が聞こえた。間もなく部屋着姿のタカユキさんが、職員に前後を挟まれるようにして階段を下りてきた。

「引き出し屋」と呼ばれる「ひききこもり自立支援ビジネス」の実態を5回の連載でルポする。

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