「幸せが壊れる時には いつも血の匂いがする」

 この言葉は、漫画やテレビアニメの「鬼滅の刃(やいば)」の冒頭に登場する。嗅覚(きゅうかく)に優れた主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)の独白だ。人食い鬼が人々を襲う作品は、漫画、テレビに続き、映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」も驚異的な興行成績をたたき出した。映画版でも、彼の嗅覚は存分に活躍した。

 思えば、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年は、本来、幸せの絶頂を迎えるはずだった。そこに鬼のような新型コロナウイルスが現れ、あっという間に地球上に暮らす人々の健康をむしばんだ。全く予期しない1年になったと言っていいだろう。

 近年、万能細胞や免疫治療薬といった言葉を聞くたびに、人間の身体は病やけがに対して強くなっていったように感じていたが、いかに弱いものであるかを痛感させられた。

 4月から5月にかけて日本でも緊急事態宣言が発出され、人々は自宅に巣ごもりし、オンラインで外界とつながるようになる。演劇や音楽といった舞台を中心にさまざまな文化活動が中止になっていった。

 そんななか、SNSで話題を呼び、爆発的なヒット曲となったのが、ほぼ無名だったミュージシャン瑛人が歌う「香水」だろう。

 その歌詞は、香水の匂いに昔の恋心を思い出す、と解すことができる。

 ここでも、「匂い」。

 直接的に身体が近づくことで伝…

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