第8回スキー場苦難、コロナ以外の理由 「不思議な冬やった」

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阿部朋美 遠田寛生=ロンドン 石井徹 ブリュッセル=青田秀樹 北京=高田正幸
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 この年末年始、日本海側の各地を大雪が襲った。地球温暖化の影響で、日本で降る雪の総量はほぼ全国的に減っているが、短期間で一気に降る「ドカ雪」は逆に増えると予測されている。少雪が進む一方で、ドカ雪への備えが必要になる――。そんな状況が今後さらに進むかもしれない。

 12月30日ごろから、福井県池田町ではしんしんと雪が降り積もった。町で唯一のスキー場にとっては待望の雪だったはずだが、ゲレンデは静寂に包まれたまま。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、今シーズンの営業が取りやめになったからだ。

 営業が停止に追い込まれたのは、これが初めてではない。直近の過去2シーズンは深刻な雪不足で1日も営業ができなかった。山間部の小さな町にも、温暖化の足音が確実に迫っている。

 「去年と一昨年は今までにない不思議な冬やった」

 町営新保ファミリースキー場の近くに長年住む佐藤英男さん(83)は例年、2メートルもの高さになる雪の除雪に追われてきた。しかし、過去2シーズンは積もっても10センチほどだった。気温も暖かく、すぐに溶けてしまった。池田町は日本海側特有の湿った雪が多く降り積もる土地。「昔は雪かきが大変だったのに、徐々に雪が減っているように思う」と話す。

 1990年代にスキー場が町営になってからは、週末のたびに周辺の道路は県内外の車で渋滞した。演歌歌手を招待する雪祭りには大勢の客が集まった。だが、ここ10年ほどはめっきり客が減り、近くの店や診療所も消えた。

オープンは後ろ倒し、通例に

 12月8日に訪れると、3シーズンにわたり営業休止のスキー場には、ひざの高さほどの雑草が生い茂り、無人のリフトとなだらかな斜面がかろうじて風情を残していた。佐藤さんは言う。「なーんも、のうなった。せめてスキー場が残ってくれれば」

 神戸市から北西に約140キロ。兵庫県豊岡市にある奥神鍋(おくかんなべ)スキー場では、年末年始の降雪で2メートル近くの雪がコースに積もった。だが、ドカ雪の影響で道路の一部が閉鎖され、待ちわびていた客足は伸びなかった。キャンセルが相次いだコロナ禍に、ドカ雪による雪害が追い打ちをかけた。

 スキー場を経営する井上博夫社長(64)は「昨シーズンは全く降らなかったのに、今度は大量の雪で車が道路を通れない。嫌がらせを受けているようだ」と苦笑いする。積雪が年々減るなか、今シーズンに期待していたところだった。

 昨シーズンはひどかった。例年は12月下旬に雪が大量に降り根雪となってコース全体を覆うが、根雪がないまま、2月末まで造雪機を稼働させ続けた。コースは、芝生の上に幅15メートルほどの人工雪がのっぺりと横たわるだけ。地域の宿泊施設や雇用を考えると営業し続けるしかなかったが、造雪機の電気代に毎月600万円かかり、過去にない赤字となった。

 スキーブームが過ぎ、レジャーの多様化でスキー人口は減少の一途をたどる。来場者はピーク時の3分の1になった。すでに廃業した同業者もいる。地域のために明かりを消すわけにはいかないと踏ん張るつもりだが、先行きは楽観できない。「いつか雪が積もらなくなって、西日本のスキー場から順番にどんどん廃業していくんやろうな」

 気象庁などが12月にまとめた地球温暖化による将来予測は、対策を取らずに20世紀末から気温が約4度上昇すると、北海道の一部地域を除く日本中で積雪量が約7割減るとしている。すでに1962年以降、シーズンで最も雪が積もった量を示す年最深積雪が日本海側の各地で減り、20センチ以上の降雪が観測される大雪の日数も減少した。

 一方で、温暖化が進めば、海水の蒸発が進み、空気中の水蒸気量が増えることで、ドカ雪は増えると予測されている。東北大などの研究では、地球温暖化によって気温が4度上がると、山形県南部から岐阜県にかけての山沿いで、60センチ以上の大雪の確率は現在の約5倍になるとの予測もある。12月中旬に関越自動車道で車が立ち往生したように、雪崩や交通機関のまひといった雪害がさらに多発する恐れがある。

 気象庁気象研究所の川瀬宏明・主任研究官は「温暖化によって積雪の頻度が減ると、たまに降るドカ雪への対応が難しく、災害が起こりやすくなる可能性がある」と警告する。

 地球温暖化の影響を身をもって感じることが、年々増えてきた。このまま人類が同じような生活を続ければ、日々の暮らしや光景が大きく変わってしまうかもしれない。(阿部朋美)

アルプスも雪不足

 スキーの本場の欧州でも各地で降雪量が減ってきている。頂を白い雪で覆われたアルプスの山々でも、そんな状況は変わらない。

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 フランス南東部モンクラール…

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