「不要不急」論の行方、市場の論理を超えて 佐伯啓思氏

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異論のススメ・スペシャル

 新型コロナウイルスに始まったこの1年もやがて暮れようとしている。今年は、あまり季節感がなかった。とはいえ、自然の方は着実に時を刻んでいるようで、少し前には紅や黄にそまっていた木々はすっかり葉を落としている。

 新型コロナ禍(もしくは騒動)については、この欄でも2回ほど書いたし、また別の媒体にも何度か書いた。おおよそ書きつくしたはずなのに、それでもまだ論じてみたいことはでてくる。

 この騒動の中で様々な言葉が飛び交ったが、気になったひとつは「不要不急」の4文字であった。「不要不急の外出自粛」である。

さえき・けいし 1949年生まれ。京都大学名誉教授。保守の立場から様々な事象を論じる。著書に「近代の虚妄」など。思想誌「ひらく」の監修も務める。

 ところが「不要不急」を自粛すると今度は経済が回らない。そこで、「旅行に出よ」「食事に出よ」と「不要不急の外出」を奨励する政府に即座に反応して、この秋には、都市の中心部や観光地に人々は押し寄せた。一方、コロナ禍の中で事業の継続が困難となり、失職して明日の生活にも苦労する困窮者たちが出現する。にぎやかな旅行者の群れと生活困窮者が同時に現れる。

 この何とも奇妙な光景をどう理解すればよいのだろうか。私には、狂気じみた笑劇のように映る。もちろん、生活困窮者にとっては笑劇どころではないだろうが、少し突き放してみれば、われわれは、何とも奇妙な社会にいる。コロナのおかげで、「命」が二つに分裂したのだ。感染症による生物的な意味での命の消失と、経済的破綻(はたん)からくる命の消失である。この二つが矛盾することになった。

 だがそれは、新型コロナという未知のウイルスに襲撃された一時的な歪(ひず)みなのだろうか。それとも、新型コロナが暴き出した現代社会の抱える異常性なのだろうか。

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 政府も経済界も投資家も、今…

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