動物園の「珍獣」、種を勘違い 理由たどると戦争の足音

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紙谷あかり
【動画】80年ほど前の京都市動物園の「珍獣スプシャン」の映像見つかる=筋野健太、上田潤撮影、「アサヒコドモグラフ」から
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 1936(昭和11)年、京都市動物園左京区)に「珍獣スプシャン」がやってきた。その様子を伝えた映像が、朝日新聞が子ども向けに制作したニュース映画「アサヒコドモグラフ」に残っていた。

 スプシャンはシカ科の動物。ひづめが牛に、頭は馬に、角は鹿に、体はロバに似ているが、その四つのどれとも違うので、和名は「シフゾウ(四不像)」と名付けられている。

 「京都市の動物園に、大変珍しいけだものがいます」。「珍獣スプシャン」と題した1分ほどの映像は、そんなナレーションで始まり、歩き回ったり、毛を刈られたりする様子を映している。

 「爪は牛に似て、牛でない。顔は馬に似て、馬でもない。角は鹿に似て、鹿でもない。体はロバに似て、ロバでもない」

 アップ映像とともにそう特徴を説明した上で、「世界中の動物園を訪ねても、おそらくここの他にはいないだろうということです」と締めくくる。

 「実はこれはトナカイだったんです」

 そう打ち明けたのは今の園長、坂本英房さん。根拠は角の形だ。シフゾウはメインの角が前側へまっすぐ伸び、やや高い位置で後ろに枝分かれする。トナカイは、メインの角が後方へ生え、低めの位置で前方に枝分かれしている。

 坂本園長によると、「珍獣」は北満州(今の中国北部)からラクダなどとともに日本へ連れてこられた。だが、来園の時点でシフゾウは中国大陸では絶滅していた。「現地でトナカイもスプシャンと呼ばれることがあり、間違ったのでは」と坂本園長は言う。

 いつトナカイと判明したかは記録に残っていない。ただ、同園の100周年記念誌(2003年発行)には、36年に到着したのが「トナカイ2頭」と書かれている。来園後まもない同年夏、1頭が死んだのも分かっている。

 坂本園長は「京都の夏の暑さに耐えられなかったのではないか。映像で毛を刈っているのは、おそらく熱中症対策」と語る。もう1頭が死んだ時期については判然としないという。

 この「珍獣」を連れてきたのは、当時、北満州に駐屯していた日本の陸軍だった。「出征中の可愛い手紙や慰問袋で喜ばせて呉(く)れたお禮(れい)に京都の子どもさん達(たち)へ」贈ったと報じた新聞もあった。

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 朝日新聞は到着翌日の朝刊京…

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