学校現場のデジタル化 先生や保護者の負担軽くなる?

緑川夏生
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 学校現場のデジタル化が進んでいる。文部科学省は、学校と保護者間の連絡を紙ではなくデジタルで行うよう求める通知を出し、推進を促している。新潟県内の学校では、どこまで進んでいるのか。村上市の小学校での活用例を取材し、利点や課題を探った。

 村上市立神納小学校(児童数209人)は、4月から東京都内の会社が運営する無料メール配信システムの利用を始めた。

 貝沼史弘教頭によると、新年度が始まる前の1月末、メールアドレスの登録を保護者にお願いしたところ、ほぼ全ての家庭が登録したという。紙の配布を残しながらも、保護者への行事や緊急時の連絡をメールを通じて行っている。

 新型コロナウイルスによる休校中は、児童を通じた紙の配布ができなかったため、メールでの連絡が有効だったという。学校再開や分散登校の案内、スクールバスの時刻表など、学校から保護者に伝えるべき様々な事項を全学年の保護者にメールで一斉配信することができた。貝沼教頭は「共働きの保護者も多く、直接一斉に連絡が出来たのはありがたかった」と話す。

 配信を担うのは主に教頭。他の教員が配信する際は事前に文面を確認してから送る運用になっている。

 いまは学校からの連絡のみだが、来年度からは保護者からの欠席や遅刻の連絡をメールで受け付けることを検討している。現状は電話でのみ受け付けているが、朝は担任が出勤前だったり、教室で登校した児童を見守ったりしていて電話を受けられないこともある。冬季は例年インフルエンザなどにより欠席者が増えるため、電話対応をする教員の負担は大きい。

 メールで保護者からの連絡も受けられるようになれば「教員、保護者の双方の負担が減るのでは」と貝沼教頭は期待する。

 保護者からの評判も上々だ。5年生の長女と1年生の長男が同校に通う、PTA会長の横山誠さん(46)は、妻とそれぞれ配信システムに登録している。クマの出没などで急きょ下校時間が変更になったり、行事の実施・中止をメールで知らされたりした時、素早く対応できたという。横山さんは「夫婦間で情報共有しながら、臨機応変に対応できる」と利点を話す。

 ただ、懸念もある。高齢の祖父母が保護者代わりに児童の世話をしている家庭もあるといい「デジタル化に対応できない世代もいるかもしれない」とし、各家庭への配慮の必要性も感じている。

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 県内の他の自治体でもデジタル化の取り組みは行われている。

 聖籠町は、小中学校の全児童・生徒に配備したタブレット端末の学習支援アプリの機能を通じ、保護者への連絡や学級通信などの書類の配信を始めている。町教育委員会によると、氏名など個人情報を含む書類などは共有しないよう留意しつつ、各学校で運用している。保護者からは、担任の教諭に端末を通じて学校への要望などを伝えることもできる。「印刷や配布に伴う教員の負担も減り、ペーパーレスにもなる」(担当者)という。

 長岡市では、小中学校に導入されている校務支援システムの機能を使い保護者へのメール配信を行っている。市教委によると、活用方法は学校によって異なるが、紙と併用して学校便りを配信したり、アンケート機能を利用したりしている学校もあるという。

 新潟市は、教材用ソフトの機能でメール配信をしている学校が多く、来年度からメール配信に特化したサービスに切り替えることも検討している。

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 学校のデジタル化に詳しい上越教育大大学院の安藤知子教授(学校経営学)によると、県内では保護者へのメール連絡は、すでに多くの学校で導入されているという。現状では学校から保護者への一方向での連絡の活用が多いが、「今後は、学校が保護者へのアンケートをオンラインで実施するなど、双方向でやりとりする活用が進む」とみる。こうした流れは「前例踏襲していた業務を簡略化し、教員や保護者の負担の軽減につながるのでは」と安藤さんは評価する。

 ただ、課題もある。学校現場のICT(情報通信技術)活用を支援する人材配備は十分でなく、「デジタル化に抵抗感の少ない教員に業務負担が偏る可能性がある」と指摘する。教育委員会が業者との間に入り、教員との橋渡しをするなど継続的な支援が必要だという。

 また、デジタルでの文書管理には、学校側の態勢整備が求められる。保護者が提出した文書の保管や削除、IDやパスワードの設定など情報漏洩(ろうえい)などへの対策も欠かせない。

 ネット環境やデジタルの知識が十分でない家庭へは「紙での運用を残しながら、各学校の事情に応じてデジタル化を進めるべきだ」と話す。

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 〈学校のデジタル化〉 文科省は10月20日、全国の教育委員会や都道府県に対し、学校と保護者間の連絡手段のデジタル化などを推進するよう求める通知を発出。URLやQRコードを通じた保護者へのアンケート▽欠席連絡のオンラインでの受け取り▽学校・学級・保健便りのオンライン配信――などの具体例を提示。デジタル化は、学校の働き方改革のほか、迅速な情報共有や双方の負担軽減につながるとしている。

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