東京五輪、コロナ禍での開催なら 選手と観客はこう動く

山本亮介
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 来夏に延期された東京オリンピック(五輪)・パラリンピック新型コロナウイルスの感染者が増えないよう気をつけながら、本当に開催できるとしたら、どんな大会になるのだろう。大会組織委員会がバスケットボール会場をモデルに検討している案などを元に、架空の選手と観客、それぞれの視点からシミュレーションしてみました。

 みなさん、どうお感じになりますか?山本亮介

選手は陰性証明済み、客も検温

 【選手】

 バスケットボール男子日本代表の暁一郎選手は荷物をまとめ、選手村を出発した。

 入村時に配られた、体温計や消毒液などが入った感染予防パックも忘れずに持参した。試合会場へ向かうバスに乗り込む際、再び検温。36度5分。定期的に受けてきたPCR検査で新型コロナの陰性も証明済みだ。

 「よし、コンディションは万全だ」。道中、本当なら仲間との雑談で気分転換したいところだけど、念には念を入れておしゃべりは自粛。静かに集中を高めた。

 【観客】

 「わぁ、やっとついた」

 中学1年生の朝日花子さんはバスケ会場に着くと、喜びが抑えられなくなった。入場口の前には1メートル以上の間隔をあけた人たちが列をつくり、自動音声が呼びかけている。

 「マスク着用にご協力ください」

 お父さんと一緒に15分ほど並び、一人ずつ検温を済ませば、いよいよ入場。家族全員で申し込んでやっと当たったチケットを機器にかざし、自動で開いたゲートをくぐり抜けた。

かけ声、円陣、飲食なし 

 【選手】

 暁選手はロッカールームで準備を始めた。チームメートと隣り合わないよう、一つずつロッカーの間隔をあけ、着替える。以前は大きな声をかけ合って気合を入れたり、円陣を組んだりして気分を高めたが、新型コロナの感染を防ぐため、極力控えている。

 「なんか、気分出ないよな」。あきらめ顔で笑う仲間の気持ちもわからないではない。こぶしで胸を2度たたき、「俺も同じだよ」と伝えた。

 コーチの指示が静かな空間に響く。もうすぐ試合開始だ。

 【観客】

 「おなかはすいていないか、花子?」

 お父さんから聞かれた花子さんは、売店のメニューをぐるりと見渡し、ホットドッグとジュースを指さした。一つの袋をみんなでシェアするポップコーンなどは、万が一の感染拡大を防ぐために販売されていない。観客席では飲食禁止のため、コンコースで食事をすませた。

 「観戦中のビールが最高なんだけどなぁ。でも、きょうは我慢、我慢」

 少し残念そうなお父さんと一緒に、座席へと向かった。

試合中の指示はOK、客は拍手で鼓舞

 【選手】

 軽快な音楽と選手紹介の後、ティップオフ(試合開始)。暁選手は敵陣に鋭く攻め込んだ。体を張って守る相手に当たり負けず、シュート。決まってもハイタッチはなしだが、試合中のポジションチェンジなどは大きな声で指示しあう。

 タイムアウトのたび、ボールやリングを係員が消毒してくれる。安心して、プレーに集中できる。

 【観客】

 花子さんとお父さんは1席ずつ間隔をあけて、座席に座った。試合が始まると、攻守がめまぐるしく入れ替わるスリリングな展開に、お父さんは「うおっ」。思わず声が出てしまった。

 花子さんにそっと注意され、「すまん、すまん」と頭をかいた。

 でも、拍手はオーケー。観客は大きな手拍子で選手たちを後押しした。

制約多いが、興奮は冷めず

 【選手】

 快勝後、チーム最多得点をあげた暁選手は、ミックスゾーンと呼ばれる取材場所へ。透明のアクリルボード越しに「自国開催で緊張はなかったか」などと質問する記者に対し、呼吸を整えながら答えていった。ヘッドコーチの会見はオンラインで行われたようだ。

 「次の試合の抱負は」と聞かれた暁選手。力強く答えた。

 「チーム内に感染者を出すことなく、メダルをめざしていきたいです」

 【観客】

 「あー、面白かった」

 試合終了の笛が鳴ると、花子さんはお父さんと勝利の喜びをわかちあった。中学でバスケ部に入ったが、会場での観戦は初めて。それが、世界最高峰の勝負の場である五輪だった。色々と制約があったとはいえ、テレビで見るのとは迫力や雰囲気がまるで違った。

 会場内には、出入り口が混雑しないよう、座席のブロックごとに退場を求めるアナウンスが流れている。

 「いつか私も、五輪に出たい」

 興奮は冷めなかった。

    ◇

 この記事のイラストは加藤啓太郎が担当しました。

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