鮮度の悪い魚をバカにしない 役立たずを再生する哲学

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聞き手・大村美香

 膨大な雑誌や資料を調べ、掲載された料理を実際に作ってみて、近現代の日本人の食べ方の変遷を解き明かしてきた食生活研究家の魚柄仁之助さん。いまの社会で問われているのは、生活技術ではないかと話します。問題意識の底には、「絶望からの再生」という魚柄さんの人生哲学がありました。

「生活技術」が大事

 これまで食育では、「みんなで一緒に楽しく食事しましょう」といった、誰にとっても説得力があって心なごむことを呼びかけてきた。しかし今回の新型コロナウイルスの流行で、こうした行動がダメだと言われるようになった。モラルを教えて本質から目をそらしてきた食育の限界を示したと思います。食育の本質は、命を奪って食べるのですから、食べ物を一つ残らずきちんと食べて体を養い、それを持続できる力を身につけることにある。そのスキルが欠けているから、スーパーで半加工品ばかり買うことになる。芽が出たり傷んだりした野菜を捨ててしまう。

 長野県にある同居人の実家では高齢の母親が野菜を作っているのですが、ひとり暮らしで食べきれず、同居人が帰省のたびに持って帰ってきます。カビが生えたカボチャも、洗って傷んだところを除けば食べられます。むしろ熟し切っていて、とても甘い。技術があれば、鮮度の良くない食材でもおいしく食べられ、保存食にすることもできるのです。

価値を見いだせるように手を加える

 北九州生まれで鮮度の良い魚を食べて育ちましたが、鮮度の悪い魚をバカにすることがとても嫌いでした。魚は魚です。鮮度のいいもの、1日でも日付が新しいものを買おうとするのが賢いと言われるけれど、食材の差別ではないですか? 自分では、あえて、誰も買おうとしない食材をおいしく調理することをやってきました。

 古い文献を見ていると、ウナ…

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この記事を書いた人
大村美香
くらし科学医療部|食と農
専門・関心分野
食と農