第11回賃金は「ひとり分食える」を大原則に 日本社会への警鐘

有料記事

志村亮
[PR]

 雇用保険は、職を失っても次の職を得るまでの暮らしを支えるセーフティーネットのはずだったのに、その力を弱めすぎた――。コロナ危機で雇用不安が広がる今、都留文科大名誉教授で社会学者の後藤道夫さんは嘆く。そして、その力を取り戻し、「ひとり分食える」賃金が当然の社会につなげるべきだと訴える。どういうことだろうか。

後藤道夫(ごとう・みちお) 1947年生まれ。福島県出身。都留文科大名誉教授。専攻は社会哲学・現代社会論。著書に「ワーキングプア原論 大転換と若者」(花伝社)、「闘わなければ社会は壊れる」(共著、岩波書店)など。現代日本の貧困を「ワーキングプア」と「日本型雇用の崩壊」という観点で分析し、対処を提言している。

リーマン・ショック後より厳しい

 ――コロナ危機の雇用への影響をどう分析しますか。

 「6月までの政府統計から見える影響は、三つの側面にわたります。一つ目は非正規雇用を中心に雇用自体が減っていること。二つ目は休業が増え、そのなかに『潜在的失業』と呼ぶべきものがかなり含まれること。三つ目は労働時間が相当減っていることです。2008年のリーマン・ショック後は雇用減が目立ちました。今回はそれだけでなく休業が増え、総労働時間の減りも激しい。リーマン後の雇用減は製造業で鮮明でしたが、今回はサービス業への影響が目立ち、宿泊飲食の総労働時間は4割強も減っています」

 ――今回の方が、より厳しいということでしょうか。

 「そう見ています。今回は人手不足も重なったので、正規雇用は必ずしもすぐには切られず、企業が一生懸命抱え込んでいる。いちばん切られているのは非正規の短時間労働者です。中堅以下世代の女性や学生が多い」

 ――今後の懸念は?

 「雇用が大きく減る、賃金が減る、の両方が起きると思います。毎月勤労統計の6月速報値では、残業代やボーナスが減っていますが、これから基本給も減る可能性が高い。大きな雇用減は6月には始まっています。GDPの減少が大きく、秋、冬が心配です」

 「気になるのは、生活困窮者自立支援法の住宅確保給付金の申請が増えていることです。雇用危機が続いたら、住宅の給付金や生活保護への申請はどんどん膨らむでしょう。でも、いきなりそういう制度が頼りになるような状況は、実はまずいのです」

失業者へのカバー率たった2割

 ――どういうことでしょうか。

 「たいていの国では、雇用危…

この記事は有料記事です。残り2810文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

この記事を書いた人
志村亮
長野総局
専門・関心分野
企業、地域経済

連載コロナショック 変容する経済(全13回)

この連載の一覧を見る