長い汽笛3回、別れのサイン 「泣かねえ」元船長の目に

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根岸拓朗
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 涙が出ると困るから、別れに時間はかけたくないと思っていた。

 6月29日朝、佐々木隆幸さん(55)はステンレスの扉を開けて「2代目さるびあ丸」の船内に入った。「電気ぐらいつけてもいいのに」。薄暗い空間が少し寂しかった。

 さるびあ丸は、東京都心と伊豆諸島間を結ぶ大型客船だ。三宅島出身の佐々木さんは、航海士や船長として20年近く乗ってきた。しかし老朽化で、船は先月に引退。この日正午には東京・竹芝の港を離れる予定だった。

 船内を歩き、眺めた。海水を運ぶパイプが壊れ、天井や壁から水があふれ出して青ざめたのは、10年ほど前のことだったか。階段を上がった先の展望デッキは日が差しこむから、かつて乗組員は「サニーガーデン」と呼んだ。足を伸ばせる白いイスが置かれ、夏には客が席を取り合った。

 操縦室で、ねじが緩んでいた配電盤を開けてみると、真っ黒なほこりがこびりついていた。「これはこれで歴史だな」と思った。

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 さるびあ丸が就航したのは2…

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