「パート主婦は現代の奴隷」桐野夏生が見た貧困は今も

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平出義明
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 「1歳の子を抱えて働けず一日1食」「職場から休職を告げられ、収入が無い」。今、コロナ禍に苦しむひとり親たちから支援団体にこんな悲鳴が寄せられている。深刻化する女性の貧困は今に始まったことではない。バブル崩壊後、金融危機が表面化した1997年に刊行された犯罪小説『OUT』は、低賃金で過酷な深夜労働にあえぐパートの主婦やひとり親の姿を描いた。自ら深夜勤務を体験取材した作者の桐野夏生さん(68)は、心に突き刺さった痛みを物語に落とし込んだという。小説の主人公と同じ立場の女性たちが抱えた痛みは、この間、どう変化したのだろうか。

 昼間のパートと、家事や育児の両立が難しくなった主婦たちの記事に、桐野さんは目を留めた。主婦たちが「家族が寝た後の深夜に向かう」のは、弁当工場。その96年7月の朝日新聞の記事は「土・日出勤も当たり前」とつづる。「すごく痛ましいと感じた」と、桐野さんはふり返る。

 「子育てや介護で家を離れられない女性たちが家計のため、自己犠牲を強いられる。『現代の奴隷』のようだと思った」。心に刺さった痛みに小説の舞台は決まった。

 翌年に出版された『OUT(アウト)』は、深夜のコンビニ弁当工場で働く女性4人がバラバラ殺人に手を染める犯罪小説。その取材で、最初に関東の小さな弁当屋を訪ねた。暑くて狭い調理場で揚げ物をする主婦は汗だくだった。時給は750円。ファストフードでバイトする高校生の娘より「安い」と嘆いた。

 バブル経済が崩壊して、「雇用の調整弁」であるパート労働は、買い手市場。スーパーのレジ係はフルタイムで働く若い女性が就き、子育てや介護の隙間に働く主婦には、厳しい労働が回された。

休憩時間なし、トイレは許可制で順番待ち

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 桐野さんは知人の紹介で、小…

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