コロナ、1週間で感染リスクなし? 隔離2週間は必要か

構成・岡崎明子
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 新型コロナウイルスに感染して入院した場合、現状では、症状が落ち着いてからPCR検査で2回続けて「陰性」と判定されないと退院できない。自宅やホテルでの療養者や、患者の濃厚接触者は、原則2週間の待機が求められる。しかし難治性血液疾患などを専門とする小島勢二・名古屋大名誉教授は、最新の知見では、発症から1週間経てば他人に感染させるリスクはほぼなくなるという。本当なのか。小島さんが解説した。

その答えは台湾の研究に

 東京や大阪など8都道府県をのぞき、ようやく新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が解除されることになった。一方で、第2波への備えの必要性が叫ばれている。第1波で科学的根拠に基づく対応がとれなかったのも仕方ないが、第2波については、科学的根拠に基づいた対策を取る必要がある。

 新型コロナウイルスの陽性者および濃厚接触者は、いつまで隔離すべきであろうか? 現在の基準では、隔離を解くには、陽性者はPCR検査で2回続けて陰性が確認されることが必要だ。自宅やホテルでの療養者も、検査で2回陰性が確認されるか、2週間の隔離が求められる。濃厚接触者も原則、患者に接触した時点から2週間の自宅待機を求められる。

 最近、台湾からこの問いの答えになる研究結果が報告された(https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2765641別ウインドウで開きます)。

 台湾で、新型コロナウイルス感染の確定診断がついた100人に濃厚接触した2761人について、濃厚接触者が最初に患者に接触した時期と、感染の有無との関係について調べた。患者のうち9人は無症状であった。濃厚接触者の内訳は、家族が219人、病院関係者が697人、その他が1755人である。

二次感染、発症6日目以降はなし

 2761人の濃厚接触者のうち、二次感染したのは22人(0.8%)であった。軽症患者よりも重症患者に接触した人の方が、感染するリスクが高かった。無症状の患者に接触した91人のうち、二次感染をおこした人はいなかった。

 二次感染した22人のうち、10人は患者に症状が出る前の接触歴があり、9人は症状が出た日から3日以内、3人は4日目あるいは5日目だった。すなわち、発熱やせきなどの症状が表れてから6日目以降に接触しても、感染することはなかったのだ。

 二次感染者の半数には患者に症状が出る前に接触歴があったが、この時期に患者との接触を避けるのは不可能であろう。

PCR検査でわかること、わからないこと

 コロナ禍を機に、「PCR検査」という単語がわが国で市民権を得ることになった。しかし、PCR検査には「定性検査」と「定量検査」があることはあまり知られていない。

 ウイルスのDNAは目では見えないので、定性検査では、特殊な装置を使って目的とするDNAを増やす。目で確認できれば陽性、確認できなければ陰性と判定する。新型コロナウイルスの診断には、通常のPCR法で十分である。

 一方、どれくらいウイルスがいるか(定量)を測定できるリアルタイムPCRという方法もある。PCRの1サイクルで目的とするDNAは2倍になるが、増やしたDNAがある量に達するのにPCRを何サイクル回したかがわかれば、最初に存在するDNAの量を推定することができる。

 ウイルスが感染した時に症状がでるには、一定以上のウイルス量が必要である。新型コロナウイルスについても、海外からリアルタイムPCR法でウイルスの量を測定した研究が数多く報告されている。これらの研究によると、症状の発症前後が最も多量のウイルスが検出され、感染から1週間を境にウイルス量は急速に減少する。

 台湾からの報告と合わせると、新型コロナウイルスが他人に感染するには一定のウイルス量が必要で、発症から1週間経てば、この値を下回ると想像される。

 ウイルスの診断は、元来、綿棒でのどをぬぐってとった液体などからウイルスを分離して確認していた。細胞を培養中のフラスコ内に、ウイルスが含まれていると思われる検体を加え、細胞が変化するのを顕微鏡で観察するのだ。煩雑なので、簡便なPCR法がとって代わったが、感染力がある生きたウイルスがいるかどうかは、この方法に頼らなければならない。

 PCR法では、感染力のない死んだウイルスも併せて検出されるので、感染する力があるかどうかは、ウイルスの分離培養の結果を待たなければならない。

ドイツでも8日目以降はウイルスなし

 新型コロナウイルスについて、診断時から時間を追うごとに分離培養を行ったドイツからの報告(https://www.nature.com/articles/s41586-020-2196-x別ウインドウで開きます)では、診断直後は高い確率でウイルスを分離することができたが、日を経るごとに減少し、発症から8日目以降では、検査した全員において分離することができなかった。

 新型コロナウイルスの分離培養は、もっとも危険な病原体を扱える限られた研究所しかできない。ウイルスの定量や分離培養の結果も、台湾から報告された研究と符合しており、これらの研究結果を総合すると、新型コロナウイルスは、症状が出てから1週間経てば、すでに感染力を失っていると考えられる。

 この研究結果は、今後の新型コロナウイルスの感染対策に極めて重要な意味を持つ。今回の知見をもとに、これまでのわが国における新型コロナ感染対策を顧みるとともに、今後の対策にこの結果をどう生かすかについて論じてみたい。

 従来、保健所が窓口になっている帰国者・接触者相談センターでは、PCR検査を受ける基準は、発熱などの症状が表れてから4日以上経過してからとされてきた。加藤勝信厚生労働大臣が保健所や国民の誤解であったと発言して物議をかもしているが、実際、ほとんどの患者が、PCR検査を受けるのは発症から5日目以降であったと思われる。

 さらに、PCR検査の結果が届いて陽性が判明し、隔離されるのは、多くは発症から1週間以上経過してからであった。すなわち、最も感染リスクが高い時期には隔離されておらず、すでに感染のリスクがなくなってから厳重な隔離管理をされていたことになる。

 台湾では、今回の結果をもとに、発症後1週間経過し、病状が悪化する恐れがなければ隔離する必要はないとして、自宅療養を勧めることになった。

海外の知見から言えること

 わが国では、自宅待機中の患者の中に病状が急激に悪化して死亡した例が続いたため、自宅療養患者を減らす方針である。しかし病状が悪化するリスクのある期間が過ぎても入院させるのが隔離の目的のみであれば、自宅での療養が推奨されてもよいかもしれない。

 家族を含め周囲への感染リスクがないとなれば、発症後1週間経った患者の多くは自宅療養を希望すると考えられる。新型コロナウイルス感染症で入院する患者の大部分は発症から1週間以上が経過していることから、患者に接触する医療従事者の感染防御も簡素化できるかもしれない。

 折しも、5月13日から新型コロナウイルス感染の診断に抗原検査が保険適用となった。抗原検査は30分間で判定結果が出るので、今後は新型コロナウイルスの診断の際に、最初に使われるようになるであろう。抗原検査は定性検査であるので、リアルタイムPCR法を併用することで重症化や感染力の有無を予測できれば、コロナ患者に対して、より的確な対応が可能となるであろう。

 今回の提案は、台湾を始め、海外の研究結果に基づいたものである。この提案を確固たるエビデンスとして診療現場に導入するには、これまで紹介してきた研究結果について、わが国でも確認する必要がある。

 残念ながらわが国からは、新型コロナウイルスの診療に有用な情報は、ほとんど発信されていない。今回のコロナ禍にあっては、中国からは怒濤(どとう)のように重要な研究結果が報告されている。

 今回紹介した台湾からの報告は台湾疾病コントロールセンター(CDC)が主導した研究であるが、武漢での新型コロナウイルス感染の流行を知り、直ちに研究計画が立てられたようだ。台湾で最初の新型コロナ感染の患者が確認されたのは1月21日であるが、この研究は1月15日から始まっている。今回のコロナ禍に対する台湾CDCの対応が世界で高く評価されている一端をみる思いがした。(構成・岡崎明子)

 こじま・せいじ 名古屋大学名誉教授・名古屋小児がん基金理事長。1976年、名古屋大学医学部卒。専門は血液腫瘍(しゅよう)学。小児がんや難治性血液病の新しい治療法の開発に携わる。

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