残業で歩合減るのは「法を逸脱」 最高裁が審理差し戻し

北沢拓也 編集委員・沢路毅彦
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 残業などの時間外労働が長くなるほど、売り上げに応じてもらえる歩合給が減るタクシー会社の賃金規則は許されるのか。この点が争われた3件の訴訟の上告審判決で、最高裁第一小法廷(深山卓也裁判長)は30日、「残業代が支払われたとは言えない」と述べ、労働基準法を逸脱しているとの判断を示した。規則は有効とした二審判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻した。

 訴えられたのは、「国際自動車」(東京)。従業員の運転手計62人が未払い分の残業代の支払いを求めていた。

 労基法は、残業などの時間外労働に対する割増賃金の支払いを義務づけており、最高裁判例では、残業代と通常の労働時間の賃金とは判別できる必要があるとされる。

 同社の賃金規則には残業代の項目があるが、売り上げに応じて支払われる歩合給を算定する際、残業代と同額を差し引かれる仕組み。そのため、売り上げが同じ従業員を比べると、残業が長いほど歩合給は少なくなる構造だった。

 第一小法廷は判決で、この算定方法について「残業代を『売り上げを得るための経費』とみて、全額を乗務員に負担させているに等しい」と指摘。残業代が多いと歩合給がゼロになる場合もあり、同社の賃金規則は「労基法の本質から逸脱している」と判断した。

 その上で、同社の残業代には「通常の労働時間の賃金である歩合給として支払われるべき部分を相当程度含んでいる」とし、「通常の労働時間の賃金と判別できない」と結論づけた。差し戻し審では、本来支払われるべき残業代がいくらだったのかが審理されることになる。(北沢拓也)

見直し迫られる「実質残業代ゼロ

 「時間外労働をしても、売り上げから残業代分と同額を差し引く」と定めたタクシー会社の賃金規則が無効かどうかを争った訴訟で、最高裁は30日、実質的に残業代が支払われているとはいえないと判断した。運輸業界で同様の仕組みをとる会社は珍しくなく、「実質残業代ゼロ」などと批判されてきたが、今後は見直しを迫られる。

 時間外労働があった場合、歩合給の働き手であっても、労働基準法37条が定める残業代を支払う必要がある。施行規則が定める計算方法は、歩合給の金額を対象期間の労働時間で割った額を残業代の基礎とする。過去の最高裁判決では、歩合給と残業代を明確に区別することも求めている。

 国際自動車(東京)の場合、形式的に歩合給と残業代は区別されていたものの、歩合給になっているのは、売り上げに応じた額から残業代を差し引いた額だ。最高裁は「元来歩合給として支払う賃金の一部を割増金に置き換えている」と指摘、労基法37条に違反するとした。

 同様の仕組みは、日本郵政グループの運送会社、トールエクスプレスジャパンでもみられ、同社のトラック運転手は「自分で自分の残業代を払っている状態だ」として提訴。現在、大阪高裁の判決を待っている。30日の最高裁判決はこうした訴訟の行方にも影響する。

 「残業代請求の理論と実務」の著書がある渡辺輝人弁護士は「タクシー業界では売り上げに一定の比率をかけた賃金の全部や一部を形式的に割増賃金とする会社が多い。今回の判決はそうした業界の慣行に警鐘を鳴らすものだ」と指摘する。(編集委員・沢路毅彦)

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