黒船の航海日誌や出島の記録…昔のデータで気候を再現

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編集委員・佐々木英輔
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科学の扉 気象データを救い出せ

 古い気象観測記録を救い出して研究に生かす「データレスキュー」の取り組みが盛んになっている。紙などで残る資料を探してデジタル化し、過去の気候の分析や将来予測の精度向上につなげる。先人が残した膨大な記録は貴重な遺産だ。

写真・図版

 近年、台風の上陸が相次いでいる。2019年は東日本各地に洪水をもたらした19号に、千葉県が暴風に見舞われた15号。前の年の21号でも、近畿地方が高潮と暴風に襲われた。

 昔はどれほどあったのか。気象庁のウェブサイトを調べると、ここ数年の上陸数は5個前後。04年はもっと多く、10個だったとわかる。さらに過去をさかのぼろうにも、わかるのは1951年までの69年分。台風の定義に従い統計を取るようになったのがこの年だからだ。

142年分の台風データを復元

 実は、前年の1950年は特に上陸が多かった。北海道大の久保田尚之特任准教授らの研究では10個。1878(明治11)年まで142年分をグラフにすると、気象庁の統計がない期間に上陸の多い年がそれなりにあったことがわかる=図左下。

 戦前は東北、北海道への上陸も目立っていた。「上陸ゼロ」の年が現れるのは1970年代以降に限られ、00年代まで上陸数は少なめだ。太平洋高気圧の位置などが、関係している可能性がある。この数十年はたまたま静かな時期で、今後は地球温暖化の影響も増すと考えると、身構えも変わってくる。

 期間を倍にできるのは、各地の観測記録を調べて独自の定義で数えたためだ。気圧や風の変化をもとに、一つひとつ上陸位置や強さを推定した。観測地点の少ない明治時代は、灯台で取られていた記録も使った。

 「長期のデータがあると、数十年単位の変動など、今まで知ることができなかったことがわかる」と久保田さんは言う。

 古い観測記録の発掘は「データレスキュー」と呼ばれる。紙やマイクロフィルムで残る資料を「救出」し、コンピューターで扱えるようにする。

 北海道・函館で公的な観測が始まったのは1872(明治5)年。気象庁は主要データを中心にデジタル化してきたが、未着手のままのものもある。

シーボルトも、幕府の天文方も

 例えば、40年あまり前に「アメダス」による自動観測が始まるまで、各地にあった区内観測所の記録。役所や個人に観測を委託していた。精度に限界はあるが、気温の長期的な変化や、「100年に1度の大雨」がどれだけかをつかむのに役立つ。

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 探せばもっと前のデータもあ…

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