「給料泥棒かもしれない…」失敗9年、学んでノーベル賞

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聞き手・今直也 嘉幡久敬
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 今年のノーベル化学賞を受賞する吉野彰さんは、1980年代に企業でリチウムイオン電池を発明した。日本のイノベーション(技術革新)を牽引(けんいん)してきた企業研究だが、90年代後半に入ると基礎研究を縮小し、中央研究所をたたむなど勢いを失った。研究力の低下が言われる中、企業研究者はどうあるべきか。吉野さんに聞いた。

 ――ノーベル化学賞の授賞式が目前に迫っています。受賞発表から時間がたち、今の気持ちは?

 「受賞発表の日は、正式発表の30分前に電話がありましたが、そのときはまあ、本当かなあと。その後は取材などにずっと追われていて。でも次第に、ノーベルウィークの講演で何を話そうかと考えるようになりました。環境問題において今後、大いにリチウムイオン電池に期待しますよというのが授賞の理由。その言葉がだんだん重くなってきました」

 ――大学などアカデミアでの研究ではなく、企業での研究が受賞する例は少ないですね。

 「企業の研究者は『論文』ではなく、まず『特許』で結果を出しますからね。今回の受賞で私が一番自慢したいところなんだけど、選考委員会は『吉野が1985年に発明した』といっている。でも証拠はなんだと言われたら、いわゆる学術雑誌に出るような論文はないわけ。しかも特許というのは、できるだけ中身がわからんように書くのがコツでね。普通の人だったら全然わからないんです」

 ――だから、評価されにくいということなのでしょうか。

 「産業界はなかなかアカデミックな研究はできない。一流雑誌に投稿して、世界が認めるようなアプローチができないというのは、もともとの宿命やからね。にもかかわらず、特許という文献を証拠に受賞者の一人に選んでもらったことは、いまの産業界の研究者にとって影響は大きいと思う」

「給料泥棒かもしれない」感じたプレッシャー

 ――そもそもなぜ、企業研究者の道を選んだのでしょうか。

 「大学の研究者もいいけど…

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