「不自由展」再開求める声、今も 芸術祭は残り1カ月

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江向彩也夏 黄澈 山本知佳
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 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(津田大介芸術監督)は、75日間の会期が残り1カ月となった。企画展「表現の不自由展・その後」が脅迫を含む抗議を受けて中止された問題は、再開を求める動きが相次ぐなど、波紋が広がり続けている。

 14日午後、メイン会場の愛知芸術文化センター(名古屋市東区)は、音楽フェスティバルや作家のワークショップがあり、大勢の来場客でにぎわっていた。

 芸術祭実行委員会によると、来場者数は8月だけで約25万8千人を記録。3年前の前回より約7万5千人多く、過去最高を更新しているという。

 一方、芸文センター8階の「表現の不自由展・その後」の展示スペースは扉が固く閉ざされ、扉に文書が貼られている。「中止を撤回し、展示を再開することを強く求めます」。出展作家で写真家の安世鴻さんの文書だ。彫刻家のキム・ソギョンさんと夫キム・ウンソンさんも同様の文書を掲げる。

 企画展では、キムさん夫妻が制作した慰安婦を表現した少女像や、大浦信行さんが制作した昭和天皇の写真を含む肖像群が燃える映像作品などに抗議が相次いだ。河村たかし名古屋市長も「日本国民の心を踏みにじる行為であり許されない」と中止を要求。芸術祭実行委会長の大村秀章知事と津田芸術監督は3日で中止を決定し、大村知事は「卑劣なファクスやメール、脅迫の電話などで事務局がマヒしている」「来場客が安心して鑑賞できない恐れがある」と説明した。

 今月13日夜、芸文センターで緊急シンポジウムが開かれ、安さんが出席した。2012年に東京・新宿のニコンサロンで元慰安婦の写真展が開催直前に中止を通告されて裁判になった問題を振り返り、「当時も日本で表現が非常に制限されていると思った。状況はよりひどくなっているのでは」と警鐘を鳴らした。この日、企画展実行委は展示再開を求める仮処分を名古屋地裁に申し立てた。企画展実行委の一人の岡本有佳さんは「中止にしたままなら攻撃に力を貸すことになる」と語った。

 芸術祭の出展作家らにも動きが広がる。企画展中止を受け、12組の作家が展示室を閉鎖したり展示内容を変更したりした。全作品の展示再開を目指す「ReFreedom_Aichi」プロジェクトには36組の作家らが賛同。プロジェクトのクラウドファンディングは、10日の初日だけで300万円超が集まった。

 企画展の再開について、芸術祭実行委は県の検証委の中間報告を踏まえるとしている。検証委は美術や憲法の専門家ら6人からなり、山梨俊夫・国立国際美術館長が座長を務める。17日に経過報告をし、下旬に中間報告をする予定だ。現時点で15人を超える関係者にヒアリングを重ねているほか、愛知県のホームページで参加作家と一般向けにアンケートをしている。作品選定の印象や、再開の可否、公立美術館が思想や知識も含め自由に展示することが必要か否かなどの設問がある。企画展実行委は「思想調査で、検閲にあたる」と批判するが、検証委は「世論を聞くためで、思想調査は一切考えていない」としている。

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