若年性認知症、孤立させない 当事者が声出せる場を

聞き手・浅沼愛
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「若年性認知症の人と家族と寄り添いつむぐ会」の道岸奈緒美さん(45)

 65歳未満の人が発症する若年性認知症。周囲とも、医療機関とも、制度とも「つながれない」現実があるという。2015年に金沢市で「若年性認知症の人と家族と寄り添いつむぐ会」を設立し、実態調査や自治体との協働プロジェクトを進めてきた、道岸奈緒美さん(45)に聞いた。

診断して終わり、の病院も

 ――会を立ち上げたきっかけを教えて下さい

 10年ほど前、勤務先の病院の医師から「認知症の男性がいて、奥さんが働かなきゃいけなくなった。日中は男性1人になるので、社会保障制度を紹介してほしい」と声がかかりました。

 男性は40代くらい。スーツを着て、パッと見、普通のサラリーマン。通常、「1人で家にいられない」ケースは、デイサービスやデイケアを紹介しますが、そこは70~90代の人が集まるのが一般的。勧めることはできなかった。奥さんには介護保険の説明もしたけれど、「利用は無理かな」という雰囲気であっさりと終わった。社会保障の限界と同時に「ただ制度にのせるだけがソーシャルワーカーなのかな」と無力さを感じ、悶々(もんもん)としました。

 そんな時、若年性認知症を母親が発症したという同級生とたまたま再会しました。母親をどこに連れて行けばいいか分からない、受診させたくても「病気じゃない」と言って行きたがらない、いざ病院に行くと医療者の言葉に傷つけられた、といった話を聞かせてくれました。

 ――理解が進んでいないのですね

 働き盛りで、子どもはまだ学生というときに発症し、仕事を辞めて経済的に困窮するケースも多い。本当は、発症イコール働けなくなる、ではないのですが、辞めざるを得ない状況になってしまう。

 介護保険の利用が、発症から5年後だったという人もいます。国は「早期受診」を掲げていますが、若年性認知症と診断して終わりの病院がまだまだある。いかに早く、生活の場で起こりうる課題に向き合い、一緒に考えられる人たちにつながるかが重要です。

本人の声、十分聞けておらず

 ――どんな活動をしてきましたか

 若年性認知症の人が孤立しないように声をもっと聞きたい、その子どもが声を出せる場をつくりたい、という思いが会を立ち上げる動機になりました。

 活動の初年度、金沢、野々市、白山の3市の病院や相談機関など約500カ所にアンケートを実施しました。回収率50%で、104人の若年性認知症の人がいるとわかった。実際は倍以上になると思います。

 経済的不安など、今後起こりうる課題の質問も盛り込み、病院などに家族や本人へのヒアリング状況を聞きました。すると、家族の回答に比べて本人の回答が少ない。認知症で話せなくなったのではありません。専門職の人たちでも、本人の声を十分に聞けていないのです。

 ですから、私たちが月1回、金沢21世紀美術館内のFusion21で開いている「金沢市若年性認知症カフェ」では、家族ばかりでなく本人が話せるように、家族とテーブルを分けています。診断を受けていなくても、「物忘れが心配」となった段階から、参加できる場所です。

 ――金沢市が先月末、若年性認知症の人と、応援する人の橋渡しをするプロジェクトを始め、ホームページ(http://kanazawa-ypad.jp/別ウインドウで開きます)を開設しました。つむぐ会も協働しています

 開設直後、将棋クラブの人が手を挙げてくれました。認知症で将棋のルールがわからなくなったけど、それを理解して迎えてくれるところがあり、一緒に楽しめる仲間もいるかもしれない。そういうチャンスを下さることがありがたい。

 何ができるかわからないけど、応援したいという個人や企業はたくさんあると思う。それぞれの場所や人、場合によってはお金かもしれませんが、「これなら」と提示してもらえれば。それをどう本人や家族とつなぐか、つむぐ会の仲間が考えます。

 お互いにできることをする地域づくりが進めば、若年性認知症の人だけでなく、ほかの障害や病気の人も活躍できる場が増え、隣人を思い合う町になっていくんじゃないかなと思います。(聞き手・浅沼愛)

   ◇

 みちぎし・なおみ 1973年、金沢市生まれ。東北福祉大を卒業し、精神保健福祉士として複数の病院に勤務。2003年から国家公務員共済組合連合会北陸病院で社会福祉士として働き、現在は同病院の患者支援センターの副センター長。15年に「若年性認知症の人と家族と寄り添いつむぐ会」(080・1954・3681)を立ち上げ、副代表を務めている。

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