じゃまなFRB議長はクビ? トランプ氏「禁じ手」乱発

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ワシントン=青山直篤
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経済インサイド

 「You’re Fired(お前はクビだ)!」――出演していたテレビ番組で、そんな決めぜりふが人気だったトランプ米大統領。それを体現するかのように、自ら起用した閣僚と対立し、すでに多くが辞任した。次に標的となったのは、米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)。来年の大統領選に向けて景気を加速させたいのに、景気過熱を心配するFRBが邪魔なためだ。FRBは政府から独立して政策を決めるのが不文律だったが、経済の構造変化による壁に直面しているのも事実で、機に乗じたトランプ氏になぎ倒されかねない。

 5月2日、トランプ氏はツイッターで、FRBを巡るある人事の断念を公表した。金融政策を決める理事7人のうち1人の候補者、米シンクタンク・ヘリテージ財団のスティーブン・ムーア氏が就任を辞退した。

「お友達」の起用を図る

 ムーア氏はトランプ氏の「お友達」のエコノミスト。金融政策には詳しくないという評判なのに、トランプ氏は空席のFRB理事2人のうちの1人として押し込もうとした。

 ムーア氏は著書で、トランプ氏に「オバマが8年間やった経済政策の正反対をやりさえすればいい」と提言したと書いている。2月の朝日新聞の取材には、「大統領も同意してくれると思うが、FRBは利下げすべきだというのが私の信念だ」と語った。

 FRBはリーマン・ショック後の金融緩和拡大を終え、2015年12月から段階的に利上げしてきた。いま、米国の失業率は歴史的な低さで、ダウ工業株平均は最高値圏。1月に利上げ休止を表明したが、景気が過熱すれば利上げに踏み切る可能性は捨てていない。

 これに対し、トランプ氏は過熱など構わず、景気をさらに良くするため利下げをしろという立場だ。自らの息がかかったムーア氏を理事とし、FRBへの支配を強めようとした。

 しかしムーア氏は過去の女性差別的な発言などが問題視され、与党共和党からも批判が出て、議会で同意を得られる見込みが立たなくなった。

セクハラ疑惑で断念

 トランプ氏はこの前にも、FRB理事に「お友達」を押し込もうとした。その候補は、ムーア氏よりさらに金融政策と縁遠そうな、元ピザチェーン経営者ハーマン・ケイン氏。

 しかし、ケイン氏は金融政策への知見もさることながら、12年の大統領選に出馬しようとした際、セクハラや不倫疑惑で撤退した過去がある。今回も批判を浴び、トランプ氏は4月22日、ケイン氏から辞退の要望があったとツイッターで発表した。

 まもなく、ケイン氏はニュースサイト「ウェスタン・ジャーナル」への寄稿で率直に思いを述べた。

 「(FRB理事になれば)出演料の出る講演会や『FOXビジネス』にも出られなくなる。こんな賃金カットを告げられたら、誰だって次の就職先を言ってやりたくなる。いまのメディア活動で毎月400万人近い人々に意見を伝えられるのに、FRB理事のためにそれをあきらめるのは、いい取引なんだろうか?」

 FOXはトランプ氏お気に入りのテレビ局。ケイン氏は理事断念の理由について「ここ(寄稿)に書いていないことはすべてフェイクニュースだ」と言い切った。セクハラや不倫疑惑にはもちろん、触れていない。

 FRB理事に就くには議会の承認が必要で、トランプ氏でも反対を押し切ることはできない。問題がある人物を送り込み、FRBを「私物化」しようとした試みはひとまず頓挫したが、今後もFRBへの攻勢を強める可能性が高い。

FRB議長もクビに?

 そもそも現在、利下げを巡る意見の違いが明確になっているFRBのパウエル議長も、トランプ氏が自ら選んで指名した人物だ。

 トランプ氏は17年11月、前議長のイエレン氏の後任としてパウエル氏を自ら指名。パウエル氏は、トランプ氏の大規模減税で好況が続いた米景気の過熱を抑えるべく、イエレン氏の路線を引き継いで緩やかな利上げを続けた。

 トランプ氏のFRB批判が強まったのは18年夏ごろから。利上げを続けるFRBやパウエル氏を「狂っている」などと露骨に批判し始めた。

 FRBが18年12月に利上げをした後、株価が急落すると、トランプ氏は「米経済の唯一の問題はFRBだ」と批判を強めた。一部メディアでは、パウエル氏の解任観測まで出た。「お前はクビだ!」を地で行くような展開だ。

 FRBが利上げ休止を決めたのは、その約1カ月後の今年1月末。トランプ氏に配慮したかのように見えたが、パウエル氏は景気減速への懸念を強調し、政治的圧力の影響は強く否定した。

 FRBを形づくる「連邦準備制度」の根拠となる米連邦準備法上、大統領はFRB議長を、金融政策への不満から解任することは難しいとされる。

 パウエル氏は3月10日の米CBSのインタビューで、「トランプ氏があなたを解任できると思うか」という問いに、「ノー」と答えた。この発言後、トランプ氏はムーア氏やケイン氏の理事起用の意向を表明。利下げ圧力を一段と強めた。

 議長をすぐに解任するのが難…

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