一番の敵は「毒親」でした 虐待サバイバーたちの叫び

【動画】「#ニュース4U」に届いた「虐待を経験した人のその後の人生を知りたい」というリクエストを受け、取材に出かけた=井手さゆり撮影

 「私以外の人の人生を知りたい」――。SNSで読者の困りごとを募って取材する朝日新聞「#ニュース4U」取材班のLINEに、親から虐待を受けて育った千葉県の20代女性からリクエストが届いた。「虐待の被害者にとっての幸せとは過去を忘れることなのか」。そんな疑問を持っているという。

 SNSでは今、「#虐待サバイバー」とハッシュタグをつけ、虐待から生きのびた人らが経験を発信している。まずそうした人たちに話を聞きに出かけた。

怒鳴られ、口塞がれ…母に殺意

 大阪市の鍼灸(しんきゅう)師、杉原靖子さん(33)=ツイッター@ginchovi=は、幼い頃からささいなことで母に怒鳴られ、物を投げつけられた。父とは生後まもなく離別。「父に会いたい」と言うと殴られた。怖くて泣き出すと、「近所に聞かれるだろ」と口を塞がれた。母に殺意を抱いたことは一度ではなく、包丁を握ったこともある。

 20代になり、何を言っても受け止めて肯定してくれるパートナーに出会った。パートナーも子どもの頃に親の暴力を受け、その後関係を絶った経験があり、気持ちに寄り添ってくれた。子どもの頃の出来事を話すうち、杉原さんは母から受けていたことが「虐待」だったと気づいた。

親と決別するための「手紙」

 2017年春、ライターで編集者の今一生(こんいっしょう)さん(53)が、虐待を受けた当事者が親へ向けて書いた「手紙」を公募していると知った。モヤモヤした気持ちを形にしてみようと、経験を初めて言葉にした。思い返すと、涙が止まらなかった。「親に愛されていなかったと認めることは苦しかったけど、手紙を書いて親と決別しようと自分に言い聞かせた」

 「私の一番の敵は、あなたでした」「これからお母さんに奪われたものを取り戻します」

 手紙の最後は「じゃあね、お母さん」と結んだ。「同じように苦しい思いをしている誰かの役に立てれば」と応募し、その年の秋に出版された「日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?」(dZERO)に収録された。

サバイバーと交流、気持ちが楽に

 それがきっかけで、ツイッターで自分と同じようなサバイバーらとの交流が始まった。お茶を飲みながら、「あんなことあった」「こんなことあった」と話すと、気持ちが楽になれた。

 「#毒親あるある」。仲間たちと17年末、虐待する親にありがちな言動を語り合う「毒親フェス」というイベントを企画した。

 「『あんたには友達がいない』と言う親に限って友達がいない」「機嫌次第で言うことが変わる」

 くだけた雰囲気の中、参加者から笑いも起きた。その少し前、中学時代に使っていたギターを探し出し、バンドを始めた。虐待経験を歌詞にし、知り合いに曲を作ってもらった。

杉原さんが虐待経験から作詞した「無償の愛」

「無償の愛」<br/>タダほど怖いものは無い/残さず食べて感謝しろ/無理矢理にでも飲み込んで/嬉しい顔を見せなさい<br/>頼みもしないのに無理矢理に/流し込まれる無償の愛<br/>タダほど怖いものは無い/逃げ込んだ先は夜の闇/奪われないように隠した心/呼吸するように嘘をつく<br/>頼みもしないのに無理矢理に/流し込まれる無償の愛/吐き気がするぜ無償の愛×2

 杉原さんは自ら発信をする理由をこう話す。「過去に向き合うのはつらいけれど、つながりが力になっている。乗り越える過程で助けてくれる人に出会い、楽しく生きていることも、いま苦しんでいる人に伝えたい」

「毒親あるある」乗り越えて

 大阪市の自営業山城和哉さん(47)は「毒親フェス」への参加がきっかけで、虐待を受けていたのではないかと気がついた。

 父は「文武両道であれ」「良い大学を出て大企業に入れ」と価値観を押しつけてくる人だった。直接の暴力はなかったが、小学校の通知表の保護者が書くコメント欄に「体罰OKです」と書かれた。家では常にびくびくし、進路や就職で自分がどうしたいか考える前に「父がどう言うか」を気にした。大人になり、父を避けて生きてきた。そんな自分にどこか後ろめたさを感じていた。

 「毒親あるある」を聞くうち、「うちもそうだった」と何度もうなずいた。子どもの頃から感じていたつらい気持ちは、父の言動が理由だったと思えた。

 親との関係で苦しむ人に「自分は悪くない」と気づいてほしいと、昨年末、大阪市内で虐待防止がテーマの講演会を主催した。「虐待を受けた人は、自分に何か悪いところがあったからだと考えがちだけど、そうじゃない。『罪悪感を感じないで』と伝えたい」と話す。

虐待を乗りこえた「サバイバー」から語られた体験は、一人ひとり違います。トラウマを受けた心は回復できるのか、記事後半では臨床心理学の専門家にも聞きました。

■ふたをしていた暴力の記憶…

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