スプーンからこぼれた娘の命(きょうも傍聴席にいます)

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石川達也
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 その夜、1歳2カ月の女の子は、初めてスプーンを使って、自分で食べ物を口に運んだ。家族はみんな、手をたたいて成長を喜んだ。翌日。女の子は母親に首を絞められ、殺された。

     ◇

 2015年12月1日、松江地裁での裁判員裁判。法廷に女児の写真が映し出された。1歳を祝う誕生日会で健康を願って、餅を背負っている姿。事件の1週間前のことだ。被告の女(41)は黒いスーツ姿で、無表情のまま、モニターをじっと見つめていた。

 法廷での証言などによると、被告は一人娘で、大阪の大学に進学したが、両親の希望もあって1997年、島根県に戻り高校教師に。4年後、同僚の男性と結婚した。異動した次の学校で人間関係に悩み、03年に休職。「心身症」と診断され、07年に退職した。

 休職したころから、被告にある行動が見られるようになった。夫婦はそれを「爆発」と呼んだ。事件後に離婚した夫は法廷で証言した。

 検察官「爆発とは」

 元夫「彼女の感情が激しく高ぶって、延々と話し合いを求めることです」

 検察官「きっかけは」

 元夫「例えば、国会で小泉元首相が『人生いろいろ、会社もいろいろ』と言ったとき。憤慨して、感情が高まって、爆発する。彼女は『自分はもっと仕事ができるのに、なんでできないんだ。社会がおかしい』と怒っているようだった」

 夫の転勤で県東部に転居したのをきっかけに被告は復調する。「爆発」も減り、不妊治療を始めた。

 感情をほとんど出さない被告が、法廷で何度か「うれしい」という言葉を口にした。つらい不妊治療の末、妊娠を知ったとき。出産したとき。

 被告のか細い声が、ピンマイクを通して、特別に用意されたスピーカーから法廷に響く。

 弁護人「妊娠を知ったときは」

 被告「駐車場で待つ元夫にメールで知らせると、すぐに病院にきてくれて、一緒に喜びました」

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