夏目漱石「それから」(第二十三回)五の二
翌日(よくじつ)、代助が朝食(あさめし)の膳に向って、例の如く紅茶を呑(の)んでいると、門野が、洗い立ての顔を光らして茶の間へ這入(はい)って来た。
「昨夕(ゆうべ)は何時(いつ)御帰りでした。つい疲れちまって、仮寐(うたたね)をしていたものだから、些(ちっ)とも気が付きませんでした。――寐ている所を御覧になったんですか、先生も随分人が悪いな。全体何時頃なんです、御帰りになったのは。それまでどこへ行っていらしった」と平生(いつも)の調子で苦もなく饒舌(しゃべ)り立てた。代助は真面目(まじめ)で、
「君、すっかり片付(かたづ…