夏目漱石「三四郎」(第二十八回)三の十四

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 女はやがて元の通りに向き直った。眼を伏せて二足ばかり三四郎に近付いた時、突然首を少し後に引いて、まともに男を見た。二重瞼(ふたえまぶち)の切長(きれなが)の落付いた恰好(かっこう)である。目立って黒い眉毛の下に活(い)きている。同時に奇麗な歯があらわれた。この歯とこの顔色(かおいろ)とは三四郎に取って忘るべからざる対照であった。

 今日は白いものを薄く塗っている。けれども本来の地(じ)を隠すほどに無趣味ではなかった。濃(こまや)かな肉が、ほどよく色づいて、強い日光(ひ)に負(め)げないように見える上を、極めて薄く粉(こ)が吹いている。てらてら照(ひか)る顔ではない。

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 肉は頰といわず顎(あご)と…

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