名古屋大空襲の体験を元に あとかたの街(おざわゆき)

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 【松尾慈子】私の今の本業は、読者投稿欄の編集をすることだ。第一の仕事は、新聞を隅から隅まで読むこと。1面から社説から、苦手な経済記事も読む。そうでないと、ご投稿の選択ができない。ここのところ、「集団的自衛権」の行使容認の議論をめぐる記事が多く、被爆者の祖父母をもち、反戦の精神とともに育ってきた私は気が重いが、それでも読む。やはりご投稿も最近はこのテーマのものが多く寄せられる。70代、80代の方々は、自らの悲惨な戦争体験をつづり、「集団的自衛権の議論に危機感を感じ、初めてこのことを書きました」との旨を書かれている方も多い。思い出すのも苦しいような記憶をたどって書いて下さっているのだと、読んでいて分かる。

 表題作は、作者おざわゆきの実母から聞いた、名古屋大空襲の体験を元にした漫画だ。おざわは実父からシベリア抑留体験を聞き取って漫画化した「凍りの掌(て)」(小池書院)で文化庁メディア芸術祭新人賞を受賞している。肉親から戦争体験を聞くのは実は難しい。私も祖父母から被爆体験を聞けないまま、2人とも他界してしまった。そのように、黙したまま亡くなる戦争体験者は多いのだろう。まだたった69年前のことなのに、戦争の記憶が風化しつつある。作画に苦労しつつ漫画化してくれたおざわに、また漫画化するのをきっかけにつらい体験を語ってくれたおざわのご両親に感謝である。

 表題作では、1944(昭和19)年春、やがて大空襲にみまわれる名古屋を舞台に、少女の視点から、戦争まっただ中の日本が描き出される。物資が乏しくなり、国民学校高等科1年の主人公・あいはいつも空腹に悩まされている。考えるのはいつも食料のことばかり。学校では勉強のかわりに畑の耕作を命じられる。それでも、あいはへこたれることがない。きびきびとした女車掌さんにあこがれ、近所に通ってくる男の子に胸をときめかせ、学校の給食に思いをめぐらせる。思春期まっただ中だ。

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 穏やかな絵柄であっても、日…

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