現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. 〈カオスの深淵〉一覧
  3. 立ちすくむ税金:1_3

印刷用画面を開く

カオスの深淵 立ちすくむ税金

立ちすくむ税金
1
22
33
44
55
立ちすくむ税金
ブータンの姿

(左から1番目)ティンプー市の郊外では、かつて田畑だったところで続々とマンションの建設が進む。作業をしていたのはインドのベンガル地方から来た出稼ぎ労働者だった
(左から2番目)2月に開店したティンプー市内のスーパーマーケット。インドやタイから輸入された食料品や雑貨が並ぶ。韓国の自動車メーカーの販売店も併設。上階にはカフェもあった
(左から3番目)ティンプー市内の週末市場。野菜をてんびんで量り売りしていた。特産のジャガイモは1キロが25ヌルタム(約38円)。自給率が低いため、インドからの輸入野菜も目立つ。外貨不足で値上がりしている
(左から4番目)ブムタン県の農家に帰省し、母親の手作り料理を食べるリンチェンさん(左)。手前左の金属容器に入っているのが、この地方の名物「ソバ粉パスタ」。息子はジーンズをはき、母親は伝統衣装を着ている=西本秀撮影

格差 都市と農村で最大5倍

 首都ティンプーから直線距離で東へ100キロのブムタン県。3千メートルを超す三つの峠を四輪駆動車で越え、2日間かけてたどり着いた山村が、リンチェンさん(21)の故郷だ。ティンプーで職を探しており、半年ぶりの里帰りという。
 斜面に寄り添って23世帯が暮らす。電気が来たのは2008年。車を持つ家はない。消費に沸く都市がある一方、人口の半数以上はこうした地方で暮らす。
 実家はジャガイモやソバを育て、細々と暮らすが、所得税を納める収入はない。ブータンが通貨ヌルタムを発行し、貨幣経済が本格化したのは1974年。それまで税は物納や労役の形だった。祖父のドルジさん(79)は「役所の屋根のふき替えや道路の修繕にかり出されたよ」と振り返る。
 「農業より、公務員や会社員がいい」。多くの若者がリンチェンさんのように都市へ流れ込む。だが、全体の失業率が3%なのに対し若者は9%。リンチェンさんも電話会社などを受けたが仕事に就けない。
 担い手が去った農村は空洞化し、主食のコメの自給率は50%にとどまる。豊かさを追った先に、新たなひずみが芽ばえる。
 あなたは幸せですか? 05年の国勢調査で、97%が「はい」と答えたのが、ブータンが「幸せの国」と呼ばれるゆえんだ。だが、質問や手法が異なる10年の調査では、経済状況や健康などの点から「幸福」と判断されたのは41%にとどまる。
 調査では、首都圏と地方の収入格差が最大5倍に達した。職業別の幸福度は、1位が公務員、人口が多数の農民は下から2番目の11位だった。政府のGNH委員会のカルマ長官は「いまは貧困と格差の二正面で戦う局面なんだ」と語る。
 7%前後の経済成長で絶対的な貧困は減った。だが、成長は相対的な格差を広げ、新たな問題を生んでいる。「今後は税制が重要だ」とカルマ長官。政府は累進課税の強化など、格差是正策を検討している。

[萱野稔人さんインタビュー]

 ヒマラヤ山脈の南側、インドと中国との間に位置する。国名は現地語では「雷竜の国」の意味。人口は70万8千人で、島根県とほぼ同じ。面積は3万8千平方キロで九州より少し小さい。
 南部の標高300メートルから、北部の7千メートルまで国土には高低差がある。首都ティンプーは標高2300メートル。日本から訪問する場合、タイのバンコク経由でブータン航空に乗り継ぐ。

 1ヌルタムは約1.5円。1974年に発行される前はインドのルピー紙幣が流通していた。物価の目安は、新聞1部5〜10ヌルタム、コーヒー1杯20ヌルタム、ジャガイモ1キロ25ヌルタム、トマト1キロ50ヌルタムといったところ。

 ブータンの民族衣装は男性用が「ゴ」、女性用が「キラ」と呼ばれ、和服のように帯を締めて着る。政府は、役所など公共施設内では民族衣装を着るよう義務づけている。ティンプー市内の街角では、民族衣装を着た人、ジーンズなど洋装の人の両方を見かける。若者の普段着は、ジーンズにスニーカーが一般的だ。インドと中国という大国に挟まれたブータンにとって、民族衣装政策は、文化的統一性を守る意図がある。
萱野稔人(かやの・としひと)さん
 津田塾大准教授(哲学・社会理論)
 税金は資本主義社会にあって、「市場の外」でやり取りされる特別なお金の流れです。国家が国民から強制的に徴収するのですから。でも、だからこそ、税金をどう集め、どう使うかは、その国の経済社会のあり方を決める根本となります。
 グローバル化によって、お金が国境を簡単に越えるようになった。成長力があり、賃金も安い新興国に、資本が流れてしまう。何とか呼び戻そうと、法人税を下げる競争も起きている。下げるだけでは財政が維持できず、取りやすい消費税を上げましょう、というのが先進国の傾向です。
 でも、グローバル化で「市場が国家を凌駕(りょうが)した」という見方は正しくありません。市場の外でやり取りされる税金こそが、市場を支えているからです。
 普段使う1万円札。この紙幣が流通できるのは、中央銀行を介して国が価値を保証しているからです。保証の裏付けは、私たちが税金を払い、国の財政を支えていること。この循環が「信用」となり、市場が機能している。リーマン・ショック後、それまで「国はいらない」といわんばかりだった金融機関が、公的資金の注入を国に泣きついた。結局、市場を救ったのは税金でした。
 税の徴収において大切なのは国と国民の信頼です。右肩上がりの時代なら、福祉などパイの分配で納得が得られた。でも低成長の縮む社会では無理。再分配が働かず、格差が広がり、一体感も揺らぐ。「税なんて払ってられない」という声まで出る。
 政治家が説得に失敗すれば、究極的には財政が破綻(はたん)し、通貨への信用が失われ、市場も機能できない。ギリシャ国民は先日の再選挙で、寸前のところで負担を引き受ける選択をした。パイが拡大しない時代、国と市場と民主主義の三角関係の中で、税のあり方が問われているのです。

[前ページへ]