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カオスの深淵 立ちすくむ税金

立ちすくむ税金
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立ちすくむ税金
相続はリスク 税のない国へ

 身を粉にして働き、巨万の資産を築いた。気がつけば還暦を過ぎた。気になるのは相続だ。そこで考えた。米国生まれの親族に米国籍を取らせ、資産を株や証券などで贈与すれば、無税の可能性が高い……。


 「そんな方法もある」と語るオーナー経営者を訪ねた。
 製造・卸売りを手がける会社は、もちろん非上場だ。詳しい連結決算は公表しないが、一代で築いた企業グループの総資産は1千億円を超える。個人資産は現金や預金などの金融資産が二十数億円、年収は1億4千万円だという。
 社長として早朝から夕暮れまで働く。昼食は社員食堂。海外出張ではファーストクラスなんて使わない。「ぜいたくへの執着はなくなった。だって、もうけるほど相続で持って行かれる。仕事が生きがいですよ」
 相続のことは常に頭にあった。相続は「リスク」だという。まだ会社が小さかったころ、贈与税を払って中学生の長男に株を与え、本人の知らない間に大株主にした。会社の資産を息子と分け合うことで、「相続リスク」を軽減するためだ。
 「金持ちのバカ息子」になるのを避けるため、事実を伝えたのは社会人になってからだ。「交通事故でおまえが死んだら、相続で一番困るのは家族だ。車の運転と健康には気をつけろ」と諭した。
 それでも長男が長生きする保証はない。万一の際、妻子が相続税を払うのは難しい。自分が面倒を見なければならないかもしれない。それが一番のリスクだという。


 「でも、僕には米国生まれの直系の親族がいるんだ」。社長が切り出した。その気になりさえすれば節税も可能だという。
 この親族は日米二重国籍を持つ。日本の国籍法では、20歳から22歳までにどちらかを選ぶ。米国籍を選ばせ、自分の現預金などを米国に移したうえで、米国の株や有価証券など「無形資産」のかたちで与えれば、日米ともに贈与税はかからない可能性が高い。海外事業に携わるなかで知った。
 社員数人で始めた会社は業界最大手に育ち、海外拠点も持つ。市場はグローバル化したのに、税制は国ごとにばらばらだと実感する。「いろんな抜け穴がある。相続税を厳しくすれば、金は税のない国に逃げる。当たり前の経済行為でしょう」
 これは法の抜け穴ではないのか。だが国際税務に詳しい古橋隆之税理士は「米国には、非居住外国人による資産贈与に課税するなんてやりすぎだとの考えがある。親族が米国で自立しているなどの条件を満たせば、贈与税はかからないだろう」と話す。

(文・橋田正城 イラスト・原有希)

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