(社説)教育の質確保 政策の優先度を上げよ

社説

[PR]

 未来を担う子どもの教育は、社会をつくる基盤だ。特に資源が少なく少子高齢化も進む日本では、公教育の質の維持は死活問題といえる。

 それを支える質の高い教員をいかに確保するか。文部科学省がこのほど示した対策案では、はなはだ不十分だ。

 政府は、政策全体の中で教育の優先度を上げる方向で考え直し、それに伴う財源をどう確保できるのか、本格的に議論を深める必要がある。

 この間、問題になってきたのは教員の長時間労働だ。経済協力開発機構OECD)の調査によると、日本の小中学校教員の仕事時間は国際的にみても特に長い。しかも、一人ひとりの子どもと向き合う時間や充実した授業の準備時間など、子どもの成長に直結する時間は十分にとれていないのが実情だ。

 家庭環境や日本語の習熟度などのため手厚い対応が必要な子も増えている。社会の変化に応じて学ぶ内容も増え、中学校には部活動もある。

 文科省は長時間労働を改善するため、数々の手を打ってきた。だが、同省が残業時間の上限とする「月45時間」に達する教諭は22年度、中学校で77%、小学校で64%。過酷な労働環境を嫌って志願者は減り、必要な教員を確保できない学校が続出している。そんな現状を変えようと示されたのが、今回の対策案だ。

 現在、公立学校の教員には教員給与特措法(給特法)に基づき、残業代の代わりに基本給の4%分を一律に上乗せした給与が支払われている。

 給特法の廃止を求める声は根強い。だが、廃止すると年9千億円の残業代が必要になるとの試算がある。校長らが教員の残業時間を正確に把握する難しさもあるとして、文科省は廃止を見送る考えだ。

 それでも今回、最近の勤務実態に合わせて、上乗せ分を「10%以上」に増やすとした。多忙な教員の給与を増やす方向性に異論はない。

 働き方改革に向けた対策も合わせて示した。終業から始業までに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」の促進や、小学校教員が受け持つ授業数を抑える「教科担任制」の拡大にも意義はあるだろう。

 だが、厳しい労働環境や給与条件のままでは、教員のなり手は大きくは増えまい。仕事を減らしたり効率化したりしつつ、教員やスクールカウンセラーらの大幅な充実が欠かせない。

 日本の教育への公財政支出は長く、対GDP比でOECD平均より低いままだ。必要な政策を行わずに社会の未来をぐらつかせてはならない。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

  • commentatorHeader
    小室淑恵
    (株式会社ワーク・ライフバランス社長)
    2024年5月8日22時5分 投稿
    【解説】

    記事にある通り、文部科学省がこのほど示した給特法を4%から10%にするなどという対策案では、はなはだ不十分だが、これまで、給特法の議論に対する新聞各紙の報道もはなはだ不十分だったのではないかと思う。教員は年間400人亡くなっているというのに

    …続きを読む