(後藤正文の朝からロック)町づくり、遠い未来を思えば

後藤正文の朝からロック

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 最近は地域と呼ぶには小さいサイズの、様々なコミュニティーを巡って話を聞きながら、町づくりについて考えている。

 きっかけは、自分の地元の静岡県に多くの人が安価で使える音楽スタジオを作ろうと思ったことだった。自治体の空き家対策課から紹介された大正時代の石蔵の取得と改装を目指したが、うまくいかなかった。緑茶の文化を現在に伝える素敵な蔵だったが、あっという間に取り壊されて更地になった。

 同じタイミングで神宮外苑の再開発についてのデモに参加した。規模も地域も違うけれど、その土地の歴史的な連なりを考えさせられる機会になった。経済的な発展を考えることは悪くないが、過去・現在・未来のなかで、現在だけに焦点を合わせているように感じる。あるいは、目先の未来しか見ていないとも言える。遠い未来の人たちのために寄付をし、木を植えてきた過去の人たちに思いをはせたような形跡が、巨大な開発計画からは感じられなかった。

 ある町の寂れつつある参道を歩いた。若い建築家が仲間たちと商店街を少しずつ改築して、新しいコミュニティーがじわじわと広がっていた。一方で、商店街の一角は町の記憶を消すかのように、宅地用の更地になっていた。別の町では、住宅街の一角に孤立するように存在する廃屋群をリノベーションし続ける建築家の話を聞いた。廃材や古材を集めて建築資材として使い、自身が借り入れた資金のほとんどは人件費に充てるのだと言う。再生する廃屋にはめ込まれた、マンションのモデルルームの巨大な窓ガラスにはっとした。ここに運ばれなければ、使い捨てにされたものだ。

 山を崩し、木を切り、古い建物を壊して打ち捨て、廃棄物を燃やし、焼却灰と不燃ゴミで谷や海を埋め立て、足りない労働力で真新しい建造物を次々と建てながら、私たちが失うものについて敏感でありたい。(ミュージシャン)

 ◇毎月第4日曜日に掲載します。

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