(社説)医師の働き方 改革の「抜け穴」作るな

社説

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 医師の「働き方改革」が今月から始まった。勤務医時間外労働は、年間960時間(月80時間相当)が原則上限となる。ただし、地域医療を支える病院や研修を担う病院は、特例として年間1860時間まで認められる。

 医師の過重労働に依存する地域医療の体質を変える契機としたい。特例を申請した病院は、厚生労働省の想定よりも少ないというが、早期に解消させることが医療機関の責務だ。医師の健康を守ることが、医療の質を保ち、ひいては安全にもつながるという認識の共有が不可欠だ。

 一方、地方には地元の大学病院からの派遣に頼る病院も多いが、医師を引き揚げるところもあると聞く。こうした動きが地域医療に与える影響も注視しなくてはならない。

 厚労省の調査(2022年)では、時間外労働が上限の年960時間を超える勤務医の割合は21%、1920時間超は4%。19年からほぼ半減したが、依然として一部に過剰な負担がかかっている現状に変わりはない。

 実態を正確に反映しているのかという問題も残る。「宿日直」や「自己研鑽(けんさん)」が、長時間労働の抜け穴になっているとの指摘があるからだ。

 宿日直は「軽度または短時間の業務」に限って認められ、労働時間とはみなされない。労働基準監督署から宿日直の許可を得た病院は、20年の144件から22年は1369件に増えた。基準を厳密に適用するとともに、現状を把握し、申請とかけ離れているのなら許可を取り消すなどの措置も必要ではないか。

 実際は仕事をしたのに「自己研鑽」として扱おうとする病院もある。まずは明確な基準の運用が必要だ。

 とりわけ専門医を目指すような若い医師は、日常の診療以外にも、学会発表などが求められ、線引きがあいまいにされがちだ。

 神戸市の病院に勤めていた医師が一昨年に過労自殺したケースでは、直前1カ月間の時間外労働が約200時間に上り、労災と認定された。遺族側は損害賠償を求めて提訴したが、自己研鑽の時間も含まれていたとする病院側とは認識の隔たりがある。

 過重労働の背景にある地方の医師不足もなかなか解消されない。武見敬三厚労相は、地域ごとに割り当てる手法にも言及し、年内に具体策をまとめる方針を表明した。ただ、医療界の理解を得られるかは未知数だ。地域の医療ニーズに応じた配置が可能となり、医師の側も納得して仕事ができるような解決策に向け協議を尽くしてほしい。

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