(社説)イスラエルとイラン 危険な報復合戦やめよ

社説

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 たとえ限定的であっても、相手領土への直接攻撃はまかり間違えば全面戦争になりかねない。イスラエルとイランはその危険を認識し、報復合戦は打ち止めにすべきだ。

 イラン中部の空軍基地近くできのう、爆発があった。米メディアなどによると、先週のイランによる攻撃への報復とみられる。イラン側は、複数の無人機を撃ち落とし、ミサイルによる攻撃はなかったと説明している。

 イラン側に大きな被害が出なかったことと、冷静な対応に、ひとまず安堵(あんど)する。

 先のイランの攻撃は、イスラエル側の迎撃を可能にする抑制的なレベルだった。米バイデン政権をはじめ国際社会がイスラエルに自制を呼びかけたにもかかわらず、攻撃が強行されたとすればゆゆしき事態だが、限定的だったのは一定の外交成果といえよう。

 ただ両国は長く敵対してきただけに、巻き添えで民間人が死傷したり、相手の意図を読み違えたりすれば、軍事衝突に歯止めがかからなくなる恐れはあった。イスラエルは事実上の核保有国とみられており、イランも核開発が疑われてきただけに、核の脅威も一気に膨らむ。

 今回の報復合戦のきっかけは、イスラエルによるとされるシリアのイラン大使館への空爆だった。

 不可解なのは、主要7カ国(G7)は国際法に違反するこの攻撃を何ら非難しなかったのに、イランのイスラエル攻撃には「最も強い言葉で明確に非難」したことだ。米英などはイランに新たな制裁を科すことも決めた。

 米国などとは一線を画してイランと独自の外交関係を維持してきた日本が、イランへの一方的な非難に同調したのは残念というほかない。

 こうした「二重基準」は、イスラエルとイランの双方に緊張緩和を促す国際的な結束にも水を差すものだ。

 パレスチナ自治区ガザで続く戦火と人道危機が、中東で緊張が高まる背景にあることも忘れてはならない。

 このままガザで死者が増え続け、人道危機が解消されなければ、イスラエル周辺国に拠点を置く武装組織にとって攻撃の口実になる。その背後にあるイランとの緊張がやむこともあるまい。

 イスラエルのネタニヤフ首相の対イラン強硬姿勢には、国際批判が高まるガザでの過剰な武力行使から目をそらすねらいも見え隠れする。

 米欧が「二重基準」ではないというならば、武器輸出の見直しも含め、ガザでの停戦実現に向けイスラエルへの圧力を強めるべきだ。

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