(現場へ!)移動クライシス:5 まず安心して通れる道を=訂正・おわびあり

[PR]

 「ホイポイカプセルって実現できるの?」

 3月に亡くなった漫画家・鳥山明さんの代表作の一つ、ドラゴンボール。オフィシャルサイトに昨年9月、そんなタイトルの記事が載った。

 カプセルを投げるとボンッと爆発し、バイクや飛行機などが現れる。記事では、そんな「ホイポイカプセルのような未来の乗り物」として、東京大などが研究開発を進める電動車両を紹介していた。

     *

 風船のように空気でふくらませて走る。名前は「poimo(ポイモ)」。そのアイデアは、2018年5月に開かれた研究合宿で生まれた。

 東京大学大学院工学系研究科の川原圭博(よしひろ)教授のグループと、メルカリの研究開発組織「メルカリR4D」のメンバー約50人が集まり、都市部の市街地などであるべき移動手段について話し合った。

 東大研究員だった佐藤宏樹さん(39)=現・宮城大准教授=が「乗るときだけ空気でふくらませ、持ち運びしやすい車椅子」を提案した。

 R4D側のリーダーとして参加していた山村亮介さん(41)は「既存の車メーカーではできないアイデアだな」と思った。かつてデンソーに勤め、ディーゼルエンジンの設計や開発に携わっていた。

 アイデアをもとに、佐藤さんらはバイク型やソファ型の試作品をつくった。「社会実装」を受け持ったのは山村さん。高齢者らの移動課題を強く意識するようになったのは、22年に入ってからだ。

 フランスでのイベントに展示すると、高齢者や車椅子利用者から、期待の声が相次いだ。国内でも同様だった。

 電動車椅子と同等の最高時速6キロ、歩道などを走る。そんな想定で、ソファ型の実用化をめざす。ただ山村さんは、街のどこででも乗れるようにするのは、まだ難しいのではないかと考えている。

 日本の歩道は一般に狭く、安心して歩ける場所は限られる。軟らかいポイモも、人にぶつかれば衝撃はある。「万一にでも、けがをさせてしまうことは避けたい」。当面はイベントなどで存在を知ってもらうことを優先する。

     *

 ホンダは2月から、「マイクロモビリティロボット・WaPOCHI(ワポチ)」を一般に体験してもらうイベントを茨城県常総市で始めた。

 上部のカメラで周囲360度を認識。一緒に歩く特定のユーザーを記憶したうえで、荷物を載せてあとをついてきたり、先導したりする。

 「『ワポチがいるから一緒に散歩に出かけよう』と思ってもらえるような存在に育てたい」。開発リーダーの小室美紗さん(38)は話す。実用化の目標は30年。まずは大型商業施設などに設置し、訪れた人たちのあいだでシェアしてもらいたい、という。

 警察庁の統計では、22年の交通事故死者のうち「歩行中」だった割合は36・0%で、米国の17・4%、フランスの14・9%などを上回る。また、歩行中の事故死者の7割は65歳以上。車を優先するあまり、高齢の歩行者たちが危険にさらされている現実がある。

 ベビーカーや車椅子を利用する人にとっても障壁となる段差が極力解消され、安心して歩けるスペースが十分に確保されている。ポイモやワポチが実力を発揮し、人の移動を支えるには、街がそんな姿に近づくことが前提になるはずだ。=おわり田村建二

 <訂正して、おわびします>

 ▼19日付NEWS+α面「現場へ! 移動クライシス<5>」の記事で、歩行中の事故死者の「45・8%は65歳以上」とあるのは「約7割は65歳以上」の誤りでした。資料中の数値の意味を取り違えました。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【本日23:59まで!】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら