(社説)旧ジャニーズ 被害の重み向き合って

社説

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 旧ジャニーズ事務所(現SMILE―UP.〈スマイルアップ〉)からタレントのマネジメント業務などを引き継ぐ新会社STARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテイメント)が本格始動した。東京ドームで先週、約5万5千人を集めてコンサートを開いた。

 旧会社は故ジャニー喜多川氏による性加害への補償業務に特化。新会社を旧会社と切り離すことで、タレントのマネジメントや育成など芸能事務所としての機能を存続させる。それが昨秋の事務所会見で示された枠組みだった。

 約束から半年経ったが、両社はいまだ切り離されているとは言いがたい状況だ。補償に専念するはずの旧会社が、ファンクラブの運営を続けている。事務所社長を引責辞任し、関係会社の経営からも退くはずの藤島ジュリー景子氏が、楽曲著作権などを管理するグループ会社の代表取締役にとどまっている。

 そうした組織の現状と、分離に時間がかかる理由は、説明の欠如への批判を受けて、ようやく今週、部分的には公表された。喜多川氏の性加害は、事務所の閉鎖性の中で長年放置された。説明を軽視する姿勢は、その体質が変わっておらず、それが新たな問題の温床になるのではないか、という懸念を抱かせる。

 そもそも、被害補償が道半ばの状況で、新会社が「新たなステージへと船出」することには、被害の重みにどれだけ向き合っているのか、という疑問がつきまとう。

 だからこそ、最低限の約束である両社の分離を空手形にせず、経過も逐一説明することが求められる。社会が納得できないままの門出は、ファンの心をも傷つけることになりかねない。

 被害への向き合い方という点では、もう一つ見過ごせない出来事があった。先月末の英BBCの報道で、旧会社の東山紀之社長は被害者への中傷について問われ、「言論の自由もあると思う」「誹謗(ひぼう)中傷のライン引きは難しい」と述べた。被害を打ち明け補償を申請することを考えている人を、尻込みさせる発言だ。

 同社は昨年も「虚偽の証言をする人がいる」という情報をサイトに載せ、二次加害を生む恐れが指摘された。性被害への対応についての知見が組織に欠けていると自覚し、補う方策を考えてほしい。

 再出発で、なし崩しに問題が終わったことにしてはならない。被害を救済し、かつ今後起きぬよう、人権状況を不断に点検していくためには、国連人権理事会の作業部会が昨夏に指摘したように、政府やメディアを含む取引先企業が果たすべき役割は大きい。

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    松谷創一郎
    (ジャーナリスト)
    2024年4月18日14時37分 投稿
    【提案】

    SMILE-UP.の事業・資産については、おもに私や朝日新聞やNHKが問題視しています。一方で、タレントの出演を「総合的に判断」などと言って継続する民放キー局は、まるで報じていません(ただし、TBSは今後報道すると予想します)。この点につい

    …続きを読む