(社説)ブラタモリ 独自の探究を楽しもう

社説

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 ブラタモリ案内人。近年、地質や地理の学者が名刺や自己紹介で使うのを見かける。

 先月、レギュラー放送が終わったNHK番組「ブラタモリ」に出演した人とわかる。いつも一般の人にわかりやすい説明を心がけているのだろうと感じさせる「肩書」だ。

 番組は、タレントのタモリさんとアナウンサーが、現地に詳しい専門家の案内で各地を歩き、謎解きをしながら、自然環境と地域の関わりを発見していく。

 地質や地理をひもといていく場面も多かった。地質などを学ぶ地学は、生活に密接に関連するのに、学校で学ぶ機会は限られる地味な分野。普及につながると研究者は歓迎した。

 その手法を分析して生かそうと、関連学会が番組をテーマに議論を展開し、専門誌は特集を掲載した。普及への貢献で、関係する学会や国土地理院が表彰した。先月発行の『最新 地学事典』では新しい項目にもなった。

 学問分野が融合している点も興味深い。土地の地質や地形から地域の特徴が作られる過程は歴史学、農学、工学、文学とも結びついていく。

 専門家が自身の啓発活動を見直す機会にもなった。ふつうの人にわかりやすく伝えるには、内容の単純化が必要な一方、学術的な正確さは損なわれることもある。裏付けの有無、説明の省略、諸説あるうちのひとつだけの採用。案内人は、娯楽性と正確性の間で着地点を探った。

 いまやブラタモリという言葉は、野外調査が必要な学問を社会に広げる活動の代名詞でさえある。専門家が自らの取り組みを「ブラ○○○」と称すると、訴求力が高まる。

 地理学者である金沢大学の青木賢人准教授も公開講座を「ブラアオキ」と名付けた。地域を一般市民や教員らと歩き、自然条件と街の発達を解説する。「土地の履歴を学ぶことで、恵みと恐ろしさが表裏一体だと理解してもらえるようにしている」と話す。

 例えば能登半島には、地震の被害を受けた千枚田のように、昔の地滑りでできた緩斜面を利用した農地が散在する。過去の地震で隆起してできた高台も人間が活用する。土地の特徴の探究は、その背景にあるリスクを知り、防災にもつながる。

 地元や旅先で見る美しい景観、街なかの曲がりくねった道筋。それらをつくり出した自然の営みを探り、地域の歴史や産業との結びつきや、その威力にも思いを馳(は)せる。

 興味のおもむくまま自分なりの「ブラ」を深めるのは、きっと楽しいことだろう。

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