(社説)水素推進法案 石炭火力の延命避けよ

社説

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 水素の利用や二酸化炭素の回収を進めるための法案を政府が国会に提出した。製鉄や化学工業分野での温室効果ガス対策として必要な施策が含まれているが、発電分野も支援対象にすることには疑問がある。とくに、石炭火力の延命に固執するような姿勢は改めるべきだ。

 「水素社会推進法」と「CCS(二酸化炭素の回収・貯留)事業法」の2法案で、すでに審議中だ。前者は、燃焼時に二酸化炭素が出ない水素やアンモニアの利用を支援する。拠点整備に加え、既存燃料との価格差を15年間補助し、計3兆円を投じる方針だ。後者は、工場などから出る二酸化炭素を地中に埋める事業の許可制度をつくる。

 2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにするには、発電や自動車に加え、工場での熱利用でも脱炭素化が欠かせない。ただ、高熱を使う製鉄や化学の電化は容易でなく、水素やCCSの実用化が期待されている。事業化に向けた支援は必要だ。

 ただ、法案の支援対象には火力発電所も含まれる。水素やアンモニアの大量利用が見込まれ、供給網や市場の創出に資するとされるが、電力は実用化済みの太陽光や風力への転換が可能だ。水素のように技術が未成熟で費用もかさむ方法は、代替手段がない分野に優先して割り当てるべきではないか。

 とくに、石炭火力のアンモニア混焼を支援対象にすることは理解に苦しむ。二酸化炭素の排出を減らす効果は限られ、50%混焼でも天然ガスより排出量が多いとされる。アンモニア自体も輸入に依存し、確保できる供給量や価格水準も不透明だ。

 火力発電のJERAは近くアンモニアを20%混ぜる実証実験を始めるが、環境NGOからは「見せかけの環境配慮」と批判が相次いでいる。

 日本政府は石炭火力を電力供給の基層を担う電源に位置づけ、近年まで新設が続いた。その投資回収の面からも、早期廃止は避けたい意向があると見られる。だが、先進国が相次いで石炭火力の廃止を表明する中で、日本の固執ぶりが際立っている。

 脱炭素に向けて多様な研究開発の支援はあっていいが、競争を十分に働かせないまま補助金で事業を回し続けることはできない。本来は、国際水準の炭素価格を設け、排出量に応じて幅広く課金することで、効率的な手段が自然に選択されるような仕組みを整えるべきだ。

 少なくとも石炭火力の延命に政府が手を貸すようなことは慎まなければならない。

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