(後藤正文の朝からロック)差別の訴えに、救済は
友人のアーティスト、マユンキキが、SNSでアイヌ民族への差別を扇動するような投稿をされたとして法務局に人権侵犯の被害を申し立てた。彼女が佃克彦弁護士と参加した会見の動画を見て、攻撃的で差別的な投稿の数々に憤りを覚えるのはもちろんだが、法務局の対応にとても驚いた。
マユンキキによれば、法務局の職員から事前に「二次被害があります。それでも救済の申し立てをしますか」と確認されたのだという。たとえ人権侵犯に相当する書き込みなどが実際に存在しても、相手が任意の聞き取りに応じない場合には、事実認定も救済措置も事実上難しくなるそうだ。双方の意見を聞く必要性は理解できるが、「二次被害」という将来を認識しながら「私たちは中立ですので」と繰り返したとされる法務局の対応は、中立と呼んでいいのだろうか。民族差別が問題であるのはもちろんのこと、制度自体に不備や限界があるという彼女の指摘は切実で、広く知られるべきことだと思う。
毎日のように、誹謗(ひぼう)中傷に関するニュースを目にする。差別もなくならない。目にしなければいいとネットを離れても苦しむ人はなくならず、かと言ってネットに張り付いてそれらの投稿のすべてと戦う時間も気力もない。せめてもと、マユンキキに励ましのメールを送った。何か他にできることはあるのかと、考えずにはいられない。(ミュージシャン)
◆隔週水曜掲載