(フォーラム)どうする?支え手不足:1 若い世代

[PR]

 ■8がけ社会

 社会を支える現役世代が今の8割になる「8がけ社会」が2040年にやってきます。介護や建設など、生活を支える様々な業種で既に生じている人手不足は、今後さらに深刻化します。そんな社会をどう乗り越えていくか。まずは若い世代の声を聞きました。

 ■「朝日新聞DIALOG」学生部メンバーと考える

 連載「8がけ社会」では、未来を語る若い世代のコミュニティー「朝日新聞DIALOG」学生部メンバーと議論を重ね、取材の進め方や企画作りに生かしました。議論に参加した学生と取材した記者が、改めて「8がけ社会との向き合い方」を語り合いました。

 ■座談会の参加者

 北村真弥さん(20) 神戸大3年

 佐野智咲さん(21) 国際基督教大3年

 中西仁さん(21) 青山学院大3年

 宗像きしなさん(21) 武蔵大3年

 田中愛奈さん(20) 九州大2年(オンライン参加)

 中山直樹記者(29) 西部報道センター

 奈良部健記者(41) 東京経済部

     ◇

 ――現役世代が2割減る「8がけ社会」という問題設定について、どう思いましたか。

 中西 東京にいると、普段の暮らしで人手不足を実感する瞬間はありません。店にも従業員はいるし、交通手段も不便はない。身近な問題として捉えづらいです。

 宗像 最初は、かなりネガティブな見方だと感じました。人手不足や少子高齢化の問題は、小学生の頃から「あなたたちの世代が支えなきゃいけない」と言われ続けてきた。当時からずっと同じ話をしているような気がします。

 佐野 私は、連載に少し期待しました。今までも解決策が全然見えないまま、「問題だよね」だけで終わっていたから。解決策を見つけていきたいという連載は、いいなと思いました。

 ――8がけ社会は、みなさんの生活にも影響が出そうです。まもなく働き手になる立場として、どうすべきだと考えますか?

 田中 働くことは人生で大きな割合を占めるし、自分の存在意義にもつながる。だからこそ、8がけ社会でも、自分にしかできないことを楽しんでやる、という考えを忘れてはいけないと感じます。

 宗像 私は逆に、自分にしかできない仕事はそんなにない、と思っています。自分の代わりがいると思えれば、働き手も気楽になれるし、プライベートの充実にもつながる。社会が流動的になることは8がけ社会にも有効だと思う。

 佐野 以前からソーシャルビジネスに関心があり、社会問題をビジネスで解決する視点が大事だと考えています。少子高齢化対策は、国や行政に任せてもうまくいかない。でも、ビジネスの枠組みで考え、解決策の提示が利益にもつながるなら、社会は動くかもしれない。実際にそうした考えが連載でも取り上げられ、自分の意見が反映された喜びを感じました。

 北村 企画作りの議論でも、雇用側と働き手をマッチングさせるアプリを使った単発バイトの話になりましたね。友人でやっている人もいますが、留学の準備や就活などで忙しい時でも自由に働き方を選べるところがいい。こうした仕組みをうまく使えば、人手不足解消につながるかもしれません。

     ◇

 ――発想の転換や、参加する人が楽しめる仕掛け作りが突破口になるのでは、と連載でも提示しましたが、どう読みましたか?

 中西 連載の冒頭に作家の多和田葉子さんのインタビューが載りましたが、「元気な高齢者がひ弱な若者を介抱する未来」という逆転の発想に驚きました。現実に置き換えても、若者と高齢者が相互に助け合わないといけないのは間違いない。これからは、双方がどんな助けを求めているのかを聞いて、お互いに支え合うことが必要となるでしょう。そんなやりとりがなければ、社会の雰囲気は変わらないと思います。

 田中 私も、多和田さんが提唱する「今ある範囲の中で満足する」という考え方は斬新だと感じました。そうやって生きていかないと、この先は立ちゆかなくなる、と痛感しました。

 宗像 「おじさんの壁」が社会の変化を妨げてきた、という記事が印象的でした。未来を変えられなかったどころか、少子化問題の議論すらできなかった、と振り返る厚生労働省元幹部の話を読んで、「とんでもないことをしてくれた」とあきれました。結局、誰も私たちの世代のことを考えてくれていなかったんだと悲しくなりました。

 北村 私はずっと「若者はどうして海外に逃げないんだろう」と思っていました。学費や生活費が安く、経済も発展している国はたくさんある。でも連載では、国内でも若い世代が興味のあることにどんどん飛び込んでいることが紹介された。それが社会課題の解決につながればいいな、くらいの気楽な気持ちで行動していると知り、なるほど、と思いました。そこに希望があるかもしれません。

 ――議論を重ねることで、8がけ社会に向き合う心境に変化はありましたか?

 中西 まずは、この厳しい現実を受け止めることが必要だと思いました。加えて、同世代の友人と、この現状を共有しないといけない、とも。

 田中 今までは、自分がしたいことを中心に将来を考えていました。それが、自分が社会に対して何ができるかを考えてみよう、と思うようになりました。社会を動かすのは国や政府であり、自分には何もできないと思っているところもあったのですが、身近なところでどう社会に貢献するかを考えて動いている人たちがいるんだ、と連載を読んで気づきました。

 北村 私は逆に、社会に対して何ができるのか、と考えるのをやめようと思っています。なぜなら、すごく負担に感じてしまうから。楽しそうとか面白そうとか思って首を突っ込んでみて、結果として課題解決につながる方向に持っていく方が、絶対に楽しい。「上の世代から押し付けられた」みたいな負担感を感じず、やりたいことをやっていきたい。

 佐野 どんな社会が望ましいのか、みんなで話し合いたいと思いました。少子高齢化の話をすると「出生率を高めなきゃいけない」とみんなが言う。でも、それが行き過ぎると、戦時中の「産めよ増やせよ」になってしまう。少子化が続いても、高齢者がみんなで協力し合い、それで幸せだよねと思えるような社会なら、出生率は低いままでもいいかもしれない。そんな議論をした方がいい。

 宗像 増え続ける空き家に外国人が興味を持って住み始めたり、スマホアプリを使って電柱の写真を撮ることが公共サービスにつながったり。そんな試みを紹介する連載記事を読んで、ポジティブに捉え直す大事さに気づきました。8がけ社会では、できなくなることが増えると思う。その中で「選ばざるをえなかった」のではなく「選びたいものを選んだ」という実感を持てることが大事だと思います。その先に、みんなが「これでよかった」と思える社会の姿が生まれるのではないでしょうか。(進行・構成 中山直樹、奈良部健

 ■《取材後記》

 企画作りの中で学生の一人が漏らした。「1年後の自分のことさえ想像もつかないのに、2040年の日本と言われても……」。率直でリアルな心の内だろう。

 一方で人口推計は、かなり正確に未来を予測する。働き手は減り、支えるべき高齢者は増える。厳しい現実は避けられない。

 では、どうするか。取材で出会った同世代は、意外なほどポジティブだった。「課題はデカい方がやりがいがある」。そう言って、人手不足が深刻な福祉業界に飛び込んでいく青年もいた。

 便利さが飽和した社会で、若い世代はモノではなく体験を求めていると感じた。目の前の人の役に立った実感、友人と一緒に汗水を流して得られた成果――。SNS世代だからこそ欲する手応えややりがいにこそ、チャンスがある。

 未来の課題は重い。「何とかしなければ」との義務感だけを頼りにすれば、息切れする。だからこそ、将来の主役世代からわき出る好奇心や欲求が解決策につながる仕組み作りが必要になる。(中山直樹)

 ■「8がけ社会」とは

 日本の高齢化率が35%に迫る2040年、働き手の中心となる現役世代(15~64歳)は、現在の約2割にあたる1200万人も減ると推計されています。高齢者世代はさらに増え、社会を支えるサービスの必要量は増えるのに、その支え手は減っていきます。

 社会のあらゆる分野で、これまで通りのやり方が通用しなくなる。「8がけ社会」の到来について、朝日新聞は24年1月から紙面とデジタルで連載し、現状を見つめ直して、その解決策を探りました。

 ◇アンケート「もし大災害に遭ったら」「当世クラス替え事情」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。

 ◇来週10日は「どうする? 支え手不足:2 8がけ社会×ThinkGender」を掲載します。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら