(パブリックエディターから 新聞と読者のあいだで)「推し」記者共有、広がる読者の輪 岡本峰子
読者も本気で心配している。
「30代の我が子は新聞もテレビもみない」「教員も新聞を読まない人が増えている」
「朝日新聞モニター」のうち少数と1月、茶話会を開いた。ふだんは1週間おきに新聞や朝日新聞デジタルの記事、報道姿勢について意見や感想を送ってもらう。今回はオンラインで顔を合わせて話した。意見で出たのが、身近な新聞離れを憂える声だ。「SNSを通じて朝デジに誘導して」と激励もされた。
朝デジが購読されるのはどんな理由だろう。茶話会にも参加し、1年半前に購読を始めたという伊藤陽子さん(48)と待ち合わせた。10年ほど前まで実家で朝日新聞を読んでいたが、一人暮らしを始めて、新聞から離れていた。
転機は音声番組「朝日新聞ポッドキャスト(愛称・朝ポキ)」だという。偶然知り、ランニングや通勤中に「ながら聞き」するうちに、記事への関心がよみがえった。
朝ポキ「ニュースの現場から」は記事を題材に、記者らが出演してMC(番組進行役)とかけあいをしながら、取材の背景などを話す。「どんな思いで取材したかが肉声で伝わる。人柄がわかる。難しい話が読み解ける。記事が立体的に読めるようになりました」。イベント参加を機に、デジタルで購読を再開。「推し」記者が何人もできた。
推しを記事で追ううちに「読み応えのある連載が多いと気づいた」。実家で読んでいた長寿連載に再会した。「コメントプラス」で有識者らの視点に気づかされることも多い。すきま時間にスマホで記事をみることが多くなった、という。
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「コンテンツを選んでもらうには記者やMCたち一人ひとりに、ファンの輪が要る。小さな輪でもたくさんでき、重なって広がれば、総体として大きな伝える力になる」と朝ポキを立ち上げた神田大介・音声ディレクター(48)は話す。3年半で配信本数が3千を超え、再生回数は7千万。出演者は950人ほどに上る。
輪は広がっている。
感想や質問がネット経由で寄せられ、手製の応援グッズが届く。千人近くが集うSNSのコミュニティーには番組や記事の感想が投稿され、MCが相談を投げることも。MCの異動に惜しむ声が相次ぐ。
リスナーの関与も増している。
「朝ポキ」の愛称はリスナーが提案。昨秋できた番組検索ツールもリスナー名「おんさ」さん(35)が基本設計して呼びかけ。膨大なデータ入力に、多くが参加し完成させた。いまも毎日追加される番組データを数人が連携して管理する。
「朝日新聞の論調は好きじゃないが、MCとの近さがいい。記者と記事が結びついて、読んでみようかなと思える」と、朝ポキファンを公言するおんささん。読みたい記事が増え、購読コースを変更した。
「リスナーさんは『お客様』ではなく、我々と対等な関係で報道の営みを支えてくれる同志」。神田ディレクターは、ツール開発の経緯に触れた記事でこう書く。ツールのリンクを番組の概要欄にいつも張る。
こうした朝ポキのリスナーとの向き合い方を学ぶにつれ、私は記者時代の雑な読者との関わり方を恥じるしかない。デジタル時代に記者の仕事は、記事を書いて発信して終わり、ではなくなっている。
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朝日新聞の読者コミュニティーには、生活面の女性投稿欄「ひととき」の投稿者でつくる「ひととき会」がある。今年で70周年。会の活動は地域ごとの交流会や年3回の会報発行など。会員減少や高齢化が進むなか、「関東グループ」が2021年にできたと聞き、責任者の吉田比呂子さん(45)を訪ねた。
まず会員増をめざす。いま9人。投稿欄に関東圏の人を見つけると「だれがお誘いの手紙を書く?」とグループLINEで相談する。
対面での例会は3回。年代も20~90代と幅広い。でも昔から知り合いのようで居心地がよい。「初めて会ってもすっとなじめるのは、朝日新聞という『推し』を共有しているからかも」。仲間に言われ、納得した。
吉田さんが朝デジ購読を始めたのは19年に初めて投稿が載って誘いを受け、入会した前後。「熱心な読者と言えないけれど、ニュースレターの記事紹介にひかれ、つい読んでます」。次は、ネットで「ひととき会」を紹介したい。自分が当初、会の情報を検索できずに戸惑ったから。もっと広く、会を知ってもらいたいと願う。
読者のこうした「推し活」を記者や社がもっと支援できないものか。
読者と一緒にやれることは、まだまだあるはずだ。
◆おかもと・みねこ 1989年入社。社会部、生活部、編集局長補佐、仙台総局長などを経てパブリックエディター(PE)。4人のうち唯一の社員PE。
◆パブリックエディター:読者から寄せられる声をもとに、本社編集部門に意見や要望を伝える
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- 【視点】
記者が顔を見せて個性を発揮し、それを「推す」読者が現れ、新聞(社)はそのプラットフォームとなる、というあり方については、私も以前、新聞がこれからも社会から必要とされる存在であり続けるための方向性の1つではないか、と述べたことがあります。
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