(フォーラム)外国ルーツの子どもたち:1 学校では

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 ■多民社会

 日本に住む外国籍の人が増えるにつれて、保護者と共に来日したり、両親のどちらかが国外出身だったりする「外国にルーツを持つ子どもたち」が増えています。もはや特別な存在ではない彼ら彼女らを、社会としてどう育てていくか。3回にわたって考えます。

 ■言葉の壁、自信削られ「性格変わった」 中学1年で来日したネパール国籍の生徒

 外国に生まれ、学齢期に日本に来た子どもたちは、日本語や他教科の学習の困難さに加え、心の悩みを抱えることも多い。外国ルーツの子たちの取材を続ける記者が、ある高校生に話を聞いた。

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 「日本に来て、ネパールにいた時と性格が変わった」。東京の定時制都立高校に通うネパール国籍の女子生徒(16)がそう話すのを聞き、気になった。「元々はすごい話す子で、うるさいって言われてたのに静かになっちゃった」

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 <テスト問題も読めず> 中学1年の冬に、先に来日していた家族を追って日本に来たという。日本語が一言も分からないまま、公立中学校に入学したが、「友だち、全然できなかった」。

 同級生から話しかけられても、何も答えられない。日本語でどう返事をしていいのかわからなかったから。「ひとりぼっちだった。自信は0%。変なことしていたらどうしようって思ってた」

 勉強面でも、自信は削られていった。授業や会話では貸し出された翻訳機を使ったが、テストは日本人生徒と同じでふりがなもない。何が書いてあるのか、まるで分からず、諦めて寝ていたという。「ネパールでは成績がよかったんです。でも、日本にきて0点になった」。分かってはいたが、ショックを受けて泣いた。

 日本語の授業は、週に1回。給食を食べてから他校に移動して授業を受けた。宿題もたくさんあり、おかげで徐々に読み書きができるようになっていった。学校では親友と呼べる友だちもできた。

 入学した高校では、約170人の同学年のうち外国籍の生徒は1人だけだった。日本語の授業はなく、英語を話す先生が週に1回だけ授業に付き添ってくれた。「分からないことは聞いてね」と言われたが、全部わからなかった。

 学習内容や教科書の表現も難しくなり、翻訳では理解しきれないことが増えた。そもそも英語は母語ではないため、頭の中でネパール語に翻訳しなければいけない。辞書で単語をネパール語に置き換えても、文章全体の意味がわからない。つらかった。

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 <少人数の定時制高へ> 家庭の事情もあり、この高校を中退して、今の学校に入り直した。1学年20人程度と人数も少なく、授業中に同級生が「やさしい日本語」で教えてくれたり、ふりがなを書いてくれたりして、肩身の狭さは感じない。「ネパールにいたときみたいに、うるさくなってきた」と自分の変化を笑う。

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 <文化祭、取り戻した私> 11月にあった文化祭では、ネパールの伝統的な踊りを同級生と披露した。「日本人はみんな一緒が好きだから、変なことしてるって思われるかもと思った」。しかし、拍手喝采を受け、先輩たちからも「良かった」と言ってもらえて、自信が持てたという。

 言葉の壁は、自尊心に影響を与える。彼女の話を聞き、それがよく分かった。彼女の周りの大人たちも、きっとできる限りの支援をしてきたのだろう。でも、それが本当に相手のためになっていたのか。私たち受け入れる側が立ち止まり、考え続ける必要がある。そう強く感じた取材だった。(山本知佳)

 ■受け入れる私たちが変わらなければ 都立町田高校定時制教諭、角田仁さんに聞く

 外国にルーツを持つ子の教育に求められていることは何か。学校現場では今、どのような課題があるのか。多くの外国ルーツの生徒を指導してきた都立町田高校定時制教諭の角田仁さん(61)に聞いた。

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 外国ルーツの生徒に向き合うようになったきっかけは、1990年代初め、30代の頃に勤務していた高校に台湾出身の女子生徒が入ってきたことでした。最初は名前をどう読んでいいのかすら分からず、それまでの経験が通用しないことに気づきました。

 その後、2000年代にかけ、定員割れとなった都立高校の定時制に、外国ルーツの生徒が数多く入学するようになった。中国、ベトナムフィリピンなど様々な国や地域から来た生徒で、日本語の壁で授業が理解できず、孤立して中退してしまう子が半数以上でした。学校側の受け入れ態勢も整っておらず、ボランティアや大学の支援を受けて日本語などを別教室で学ぶ授業や補習をするなど、指導方法を手探りしてきました。

 そんな経験で気づいたのは、受け入れる私たちが変わらなければならないということです。そこで日本人の生徒たちも対象にし、多文化共生のためのシチズンシップ授業を始めました。中国語など、生徒たちの母語の授業を採り入れたり、お互いにルーツについてインタビューをして将来の夢を語り合うようなアクティブラーニング型の授業をしたりしました。

 多文化共生の教育は、私たち日本人にとっても極めて大切なものです。お互いが変容し、お互いが学び合う。海外に行かなくても、学校で外国ルーツの仲間が隣にいれば、貴重な体験になります。

 外国ルーツの生徒の進路指導も、試行錯誤が続いています。専門学校は、まだ受け入れ態勢が整っていないところが多い。大学では、留学生を積極的に受け入れても、在日外国人の特別枠を設けている学校はまだ少数です。

 就職を選んでも、保護者の在留資格に伴う家族滞在ビザでは週28時間までしか働けず、卒業後もアルバイトを続けるしかない子が少なくなかった。近年、条件を満たせばフルタイムの仕事ができる定住者や特定活動のビザに切り替えられるようになりましたが、本人や家族も知らないことが多く、教員や弁護士、行政書士らが手続きを手伝う必要があります。

 外国ルーツの生徒には、日本語に加えて母語や英語ができ、異文化経験が豊富な子も多くいます。今まで出会った高校生たちの多くが、その後も日本で生活する道を選んでおり、社会でもっと力を発揮することができるはずです。

 日本社会で頑張ってみよう、と考えている外国ルーツの子たちに、家族を持ち、地域を支え、納税し、社会に貢献するフルメンバーになってもらうためにも、教育、労働、入管行政などを見直し、公的に支える仕組みを作るべきです。

 彼ら彼女らは、日本と母国の懸け橋になる可能性がある。それぞれの言語や文化を生かせるような場で活躍することで、日本社会にとっても豊かな存在になりうる人たちなのです。

 (聞き手・山本知佳、フォーラム編集長 真鍋弘樹

 ■大人は安心できる存在になって/専門職員の配置を

 アンケートでは7割の方が、外国ルーツの子どもや大人が「友人、知人」「地元の学校や近所」にいると答えました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/192/で読むことができます。

 ●大人が寛容な姿を 子どもは親の都合で来日することがほとんどなのに、子ども同士で差別的な対応をしないか心配。まずは大人が寛容で親切な姿を子どもに見せ、安心できる存在になっていければと思い、自分の子どもを通して近所の子どもに話しかけるようにしています。(神奈川、女性、30代)

 ●日本の未来担う「宝物」 外国ルーツを持つ子どもたちも、日本人同士の間で生まれた子ども同様、この日本という国の未来を担うかけがえない「宝物」です。国や自治体はもちろん、地域全体で、彼らを育む必要があると考えます。そういう積み重ねが日本の未来、世界の未来につながっていくと思うからです。(静岡、女性、30代)

 ●戸惑ってしまうかも 私は地方の自治体に住んでいて、まだ外国ルーツの子どもたちと出会ったことがありません。なので自治体住民は、いざ出会ったら、戸惑ってしまうかもしれません。そうした場合を想定して、国や自治体は、受け入れ可能な交流の場やイベントを積極的に推進していくべきだと思います。(北海道、男性、40代)

 ●もっと専門職員を 小学校で支援員をしています。教員免許を持ってはいますが、外国人への日本語指導は専門外で、手探りの日々。しかも非正規なので勤務日数も時間も限られており、力不足が申し訳ないです。先生方の中には、外国籍の子どもたちへ冷ややかな目を向ける人もいます。もう少し予算を増やし、専門の職員を学校に配置してほしいです。(福岡、女性、40代)

 ●学校全体で対応を 公立中学校の日本語学級に勤務しています。学校全体で多様な子どもたちが分断されることなく共に学べ、必要に応じて個別支援が得られる体制が必要です。多様な人たちが対等に共に生きるためにどうすべきか、生徒と先生たちがみんなで話し合い、多文化共生教育を推進していくことで、日本の学校が変わると思います。(埼玉、女性、40代)

 ●学校任せではだめ 国や自治体でどうすれば良いのか定めるべきだ。ただでさえ学校の労働環境は悪化の一途をたどっているのに、ここでまた学校任せにしたら、教員志望が少なくなる一方だと思う。(東京、男性、30代)

 ●孤立させないように 外国ルーツの人たちが文化的、言語的、経済的に伝統的日本社会から分断された状況が固定してしまうと、治安の問題や社会福祉の支出など社会的コストとして跳ね返ってくるので、社会から孤立しないようなコミュニティーをつくっていく必要がある。生活者や消費者として日本社会の恒常的な一員となれるような仕組みが必要だ。(埼玉、男性、40代)

 ●日本社会支えて 学校教育を通じて日本の伝統や文化を共有してもらい、日本に同化し、他の日本人とともに日本の社会や経済を支える存在になってもらいたい。(広島、男性、60代)

 ◇アンケート「教育虐待をなくすには」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。

 ◇31日、1月7日は休載します。次回1月14日は「外国ルーツの子どもたち:2」を掲載します。

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