(フォーラム)ニュース離れ:3 どうする?

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 デジタル時代に浮かび上がった「ニュース離れ」。その主な理由は、暗いニュースの洪水とメディア不信です。そして、新たなニュース回避の動きもみられます。逆境のはざまで、メディアが読者の信頼を取り戻し、ジャーナリズムの役割を果たす道筋を考えます。

 ■スマホ置いて旅に、「世界のリアル」この目で タレント・ふかわりょうさん

 スマホなどを通じて、ニュースに触れる機会が増えています。情報番組で司会を務めるタレント・ふかわりょうさんは普段、どうニュースと向き合っているのでしょうか。昨秋、スマホを自宅に置いて3泊4日の旅に出たという経験も踏まえて聞きました。

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 情報番組に携わっているので、ネット上の記事をスクロールして眺めています。立ちどまって、何が悪いとか、こうあるべきだというのはあまり考えません。書き込まれたコメントについては、世間の風向きを確認するくらい。精神衛生上、極力ドライでいたい、と思っています。

 ニュースも、どの窓から見るかによって変わってくる。新聞もテレビも一つの窓です。新聞であれば紙面の扱いの大きさでニュースの価値の大小が提示されている。スマホだと、おのおのの閲覧履歴によって個人的に関心のあるニュースが表示されることも多い。それぞれ一長一短があります。

 世界で何が起きているかを教えてくれるのも、ニュースの役割の一つでしょう。いまはスマホ一つで容易にニュースを取りにいけるので、人々は情報を浴びすぎてしまう。起きている間、隣の人にずっと話し込まれているようなものです。入ってくる情報を処理するのが追いつかなくて、「ニュース疲れ」してしまうのでは。

 文明の利器であるスマホを否定するのではありません。スマホがなかったころに戻りたいわけでもない。ただ、使い方が難しい。また、スマホを持つことによって失ったものもあります。その一つが「ボーッとする時間」です。

 情報があふれて、見放題、聞き放題が当たり前という時代。だからこそ、多くの人がソロキャンプをして、不自由さや非効率の心地よさを満喫し、「わざわざの果実」を探しているんじゃないでしょうか。

 スマホという小さな窓ばかりのぞいているのは、いわば、人生の脇見運転。僕がスマホを持たずに旅に出たのは、自分の目で世の中を眺めたかったからです。

 スマホで店を探すと、数値化された人の評価が反映されています。そんな、アルゴリズムの鎖に縛られたくなかった。そういうものをそぎ落とした先にある出会いはまぶしく、貴重な経験に感じました。

 効率や利便性だけが、生活の豊かさではないと思います。面倒臭いことや手間をかけることで得られる豊かさもある。それが生きている実感につながる。

 スマホは一つの窓にしか過ぎない。ここからのぞいたことを「世界のリアル」と思うのは危険です。世の中で何が起きているのかをスマホの中の言葉や映像だけで知るのではなく、自分の目で捉えたものを大事にしたいと思っています。空から落ちてきた一枚の葉とか、日常の身近な「ニュース」に、私は感情が揺さぶられます。(聞き手・吉田純哉)

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 1974年生まれ。慶応大学在学中にお笑い芸人としてデビュー。音楽活動やエッセー集など著述業も。近著に「スマホを置いて旅したら」など。

 ■暗い話題に疲弊・一方通行の情報に不信感…メディアは 取材方法など開示、「誠実性」見せる

 「ニュース離れ」という言葉を聞いて、むのたけじさんの残した言葉を思い出した。

 「ジャーナリズムは、私の考えでは民衆生活の朝夕の相談相手ですな」(『希望は絶望のど真ん中に』)

 むのさんは戦時中、実態とかけ離れた報道の責任をとって朝日新聞を退社した。郷里の秋田で週刊新聞「たいまつ」を創刊し、101歳で亡くなるまで反戦平和を訴えたジャーナリストだった。

 今回、英国のロイタージャーナリズム研究所の調査で、ニュースを避けようとしている人が世界的に増えていることを取り上げた。その理由として多かったのは、特定のテーマの大量報道や暗い話題で気分が落ち込むこと、そしてメディアへの不信感だ。

 その一方、もうひとつの「ニュース離れ」が報じられた。「ニュースと決別するSNS メディアに深刻な打撃」(10月19日ニューヨーク・タイムズ電子版)。グーグルなどのプラットフォーム事業者からニュースメディアへの読者の流入が減っているという。

 読者とプラットフォーム。二つのニュース離れのはざまで、メディアはどうすべきだろうか。

 読者の信頼回復に向けて、山本龍彦・慶応大学大学院教授が提言するのは「誠実性」だ。デジタル社会では、伝え方や切り口の異なる複数のメディアのコンテンツを受け取る。当事者の会見やSNSでの発信もある。受け取ったニュースが事実の一部でしかないこと、特定の観点から編集されたものであることを受け手は知っている。このため、「取材方法やプロセスをできる限り開示することで、新聞メディアは、自らの誠実性を可視化し、信頼を取り戻すことが可能になる」(『月刊ジャーナリズム』2022年1月号)。

 「誠実性」は、過去との向き合い方でも問われる。「メディアの沈黙」が指摘されたジャニーズ問題を問題ととらえられなかった自らの愚鈍を恥じるだけでなく、今後にどういかしていくか。

 プラットフォームとの関係はどうか。ロイターの調査ではアルゴリズム依存への不安もみられた。重要な情報や反対意見の見逃しを心配する人が約半数にのぼった。

 先のタイムズの記事は、米誌編集長のこんな言葉で結ばれている。「ある意味、ソーシャルウェブからの(読者の流入の)減少は、非常に解放感を感じさせます」。プラットフォームのニュース離れを危機とみるか、読者との関係を切り結ぶ好機とみるか。

 先頃、公正取引委員会がプラットフォーム事業者とニュースメディアとの取引実態についての調査結果を公表した。山腰修三・慶応大学教授は「民主主義を支え、深めていくための持続可能なニュースの流通および対価の支払いのあり方を構想すべき」だと提言する(10日付朝日新聞)。この議論の前提となるのもメディアへの信頼感だ。公取委のニュースを聞いた知人からは「業界の生き残り話にしか聞こえない」と言われた。

 国民の知る権利に応えるための良き「相談相手」になる。「誠実性」の対極にあった戦争報道への悔いから絞り出された言葉に向けて、メディアの課題は多い。(喜園尚史)

 ■読者とのつながり耕し、社会課題解決の糸口に

 今日もニュースは、ガザウクライナのやりきれない現実を伝えている。せめてこの文章は、最近の明るい話題で始めたい。

 そう、アレである。プロ野球阪神タイガースが38年ぶりに日本一に輝いた。ファンの歓喜は前回と何一つ変わらないように見えるが、1985年と今年を比べるとメディア環境は激変している。

 プロ野球中継は、毎夜のように地上波で放映されていた。歌謡・バラエティー番組が翌日の学校で話題になった。日々のニュースは新聞かテレビで知り、スマホどころかインターネットも一般向けには存在せず。マスメディアから受け手へ情報は1本の線で届いた。

 いまや無数の送り手から無数の受け手へと情報が豪雨のように降り注いでいる。既存メディアやウェブ媒体に加えてSNSでの個人発信、ニュースに似せた広告やコタツ記事まで、コンテンツは様々ある。発信側の多くと巨大プラットフォーム企業が唱え続けるのは「マネタイズ」。どう金を稼ぐかという呪文に縛られている。

 この38年の変化は、グーテンベルクが15世紀に活版印刷を発明して以降の500年よりも劇的かもしれない。希望のない報道による疲弊。メディアへの信頼度の低下。興味をそそる情報ばかり届くアルゴリズムへの疑念。今回の企画で採り上げた現象は、メディアの地殻変動とは切り離せない。

 どう考えたらいいのか。これまで紹介した読者アンケートや記事にヒントを探ってみる。

 「(メディア側が)国民の声として意見を述べることも多いが、納得いかないことが多い」「上から目線で押し付けられているよう」

 メディアから一方通行で送られる情報に疑心を持つ人が増えているのは、間違いのない事実だ。その半面、情報のシャワーに首をかしげる意見も寄せられた。

 「興味があったり、自分に都合のよい考えだったりする情報を見せられている」「そのため、自分とは政治的志向の異なる報道を偏向と批判する印象が強い」

 「大海に船をこぎ出すには、情報を選び取る力はいわばライフジャケットですが、それが無い」

 浮かぶのは、情報を主体的に選択しようとする姿であり、同時にニュースの海で個人がばらばらにされている風景だ。そこでいま、強く求められているのは、「ジャーナリズムと市民を結ぶ公共のつながり」(ロイタージャーナリズム研究所)ではないだろうか。

 プロ野球ファンのような熱く強い結びつきが必要というわけではない。ニュースを伝え、伝えられる関係を少し越えた、応答と共鳴からなる緩いつながりでいい。

 このフォーラム面のアンケートには、ときに千件以上の回答が集まる。具体的な課題を示し、解決策を共に考えていくテーマでは、読者の反応が大きく跳ね上がる。そこには朝日新聞への共感もあれば、注文や批判もある。

 メディア空間に開いた小さな窓を通じ、メディアと個人とのつながりを耕していく。編集の過程を受け手に開き、共に社会課題の解決を手探りしていく。そんな繰り返しからしか答えは見つからない。いまは、そう考えている。(フォーラム編集長・真鍋弘樹

 ◇アンケート「『望まぬ妊娠』は誰の責任?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。

 ◇来週11月26日は「60歳の崖」を掲載します。

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