(社説)一帯一路10年 協調してこその繁栄だ

社説

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 古代シルクロードにならい、中国と中央アジア、欧州を陸路と海路で結び、経済的繁栄を築く。後に「一帯一路」と呼ばれる経済圏構想を習近平(シーチンピン)・中国国家主席が提唱してから、10年が経った。

 中国企業の市場を確保し、米国の影響が手薄な地域を勢力圏にする狙いもあったとされる。その後、対象国はアフリカなどにも拡大し、中国の世界戦略の代名詞になった。

 成果は上がっている、と中国側は強調する。中国の各都市からドイツなどへ国際貨物列車を走らせ、沿線国との貿易総額を年平均8・6%増やした。投資額は累計2700億ドルを超えたという。

 一方で積極投資は多額の焦げ付きも発生させた。典型例とされるのがスリランカのハンバントタ港開発である。同国が借金を返せず、中国企業が2017年から99年間に及ぶ港湾の運営権を得た。「借金漬け外交」「債務の罠(わな)」として批判の的となった。

 だが、貸した金を回収できなかった中国こそ罠にはまったといえるだろう。相手国政府に迎合し、収益を生まない施設をつくって資源を浪費した軽率さを反省すべきだ。

 その後、中国は行き過ぎた投融資を抑える姿勢へと転じた。習政権は「持続可能性」や「質の高い発展」を強調するようになった。

 国内からも疑問の声は上がっている。昨秋の国際関係をめぐる清華大(北京)による意識調査によると、対外援助が「多すぎる」「やや多すぎる」とした回答が、合わせて半数を超えた。資金力にものを言わせた外交は曲がり角に来ている。

 途上国の債務への対応には関係国や国際機関との協働が欠かせない。二国間協議に固執する傾向があった中国だが、アフリカ・ザンビアの債務問題ではフランスと共同議長を務め、6月に債務再編の基本合意にこぎ着けた。中国には今後も各国と協調していくよう望みたい。

 一帯一路にはロシアのウクライナ侵攻が影を落とす。貨物列車は西欧向けの積み荷が激減し、大半がロシア、ベラルーシ向けだという。欧州では対中不信が広がり、主要7カ国で唯一、一帯一路参加国だったイタリアは、経済的恩恵が少ないとして離脱検討へとかじを切った。

 10月には一帯一路をテーマに3度目の国際フォーラムが北京で開かれる。これにあわせてロシアのプーチン大統領が訪中する。だが、単なる中ロ関係強化をアピールする舞台にしてはならない。幅広い国際協調を打ち出す場と、中国は心得るべきである。

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