対話がひらく新時代 朝日地球会議2023
「朝日地球会議2023」は「対話でひらく コロナ後の世界」をメインテーマに10月9~12日、東京の有楽町朝日ホールとオンライン配信のハイブリッド方式で開かれます(12日はオンラインのみ)。人工知能(AI)の進化と影響、地球温暖化、ロシアのウクライナ侵攻など、私たちは危機と課題に直面しています。国内外の識者が交わす対話に、ぜひご参加ください。
■混沌とする世界への視座
コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻を経て、世界は混沌(こんとん)とする。交わらない価値観と広がる格差や分断は「対話」によって乗り越えられるのか。一気に注目度が上がったAIは問題の解決に寄与するのか。セッション「『世界の知』と探るAI新時代」では、欧米の識者や日本の専門家と、こうした点を深掘りしていく。
このセッションの第2部「2024年変わる世界秩序 新しい時代への視座」には、フランシス・フクヤマ、エマニュエル・トッド、マルクス・ガブリエルの各氏が登場。朝日新聞記者が3氏に取材した動画を元に、政策研究大学院大の岩間陽子教授、東京大東洋文化研究所の中島隆博所長と議論を深める。
ソ連が崩壊した1991年。多くの人たちがその意味を測りかねていた。この時期に著書「歴史の終わり」(92年)で時代を画したのが、米国の政治学者のフランシス・フクヤマさんだった。
自由民主主義の「勝利」を論じた「歴史の終わり」はリベラリズムの本質的な弱さも指摘していた。だがこの書は「米国の単独覇権の下で、グローバル化と技術革新が追求された冷戦後の時代潮流を正当化するもの」とも受け止められた。そこに「誤解」があったとフクヤマさんは言う。
その後、格差拡大など自由化偏重の弊害もあらわになり、リベラリズムを「時代遅れ」と主張してきたプーチン大統領のロシアがウクライナに侵攻した。今の世界に、自由民主主義の「勝利」の高揚感はない。
しかし、フクヤマさんはリベラリズムの再興に希望を失っていない。なぜなのか。今後の展望とあわせ、語ってもらう。
フランスの歴史人口学者で家族人類学者エマニュエル・トッドさんは家族制度や人口動態データなどをもとに社会や政治を分析し、ソ連の崩壊や英国の欧州連合(EU)離脱を予言してきた。ロシアのウクライナ侵攻の責任は米国と北大西洋条約機構(NATO)にあるとし、西側の民主主義は不平等が深まり、失速したと指摘する。
多極化する世界で曲がり角を迎えた民主主義の先にあるのは何か。トッドさんは西洋中心の価値観や世論とは異なる視座を与えてくれるはずだ。
分断と対立の中で、「対話」の糸口を見つけようと模索してきたのがドイツの哲学者マルクス・ガブリエルさんだ。
ガブリエルさんは、私たちはどこに生まれても普遍的な道徳的価値観を持っているという。だがときに「彼らと我々」との違いを強調する物語が生まれ、相手を非人間化し始める。テクノロジーが分断の動きを強めていると、警鐘を鳴らす。どうすれば私たちは普遍的な価値観に目を向けられるのか。ガブリエルさんの思索に耳を傾ける。(青山直篤、渡辺志帆、宮地ゆう)
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「『世界の知』と探るAI新時代」で発言を紹介する海外登壇者3氏の完全版動画は10月9日午後1時~12日午後11時59分、オンラインで視聴できます。番組は次の通りです(いずれも60分。来場参加か視聴登録をした方に視聴URLを送ります)。
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「『第3の言葉』をさぐる~未来を共有するために」 マルクス・ガブリエル(哲学者)▽聞き手・宮地ゆう(本社GLOBE副編集長)
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「リベラリズムへの希望~世界を再構築するために」 フランシス・フクヤマ(政治学者)▽聞き手・青山直篤(本社国際報道部次長)
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「西洋支配の終わり 世界と日本の姿を予言する」 エマニュエル・トッド(人類学者・歴史学者)▽聞き手・渡辺志帆(本社GLOBE+副編集長)
■AIの功罪、恩恵受ける道は
一方でいま最新のAI技術の功罪に対し、世界で注目が集まっている。
昨年11月に公開された米新興企業オープンAIの対話型AIの「ChatGPT(チャットGPT)」は、一般の利用者がパソコン上で、人間と自然に会話するように文章でやりとりができる。最新のAI技術は、メールの文面やコンピューターのプログラムづくりに貢献し、教育や医療サービスなどへの活用を通じ、生産性を劇的に高めるとの期待がある。
これに対し、米非営利団体は5月、最新のAI技術が疫病や核戦争と並ぶ「人類絶滅のリスク」につながり得ると警告する書簡を公表した。偽情報や偏見を含んだ回答が社会の分断を加速させ、民主主義を脅かしかねないとの指摘もある。
第1部の「AIからの挑戦状~知性・創造とはなにか」では、通信アプリ「シグナル」の社長を務めるメレディス・ウィテカーさんが登壇する。コーディネーターを務めるキャスターの長野智子さんが慶応大の安宅和人教授、ヴィジュアリストの手塚眞さんとともにAIのリスクを減らし、恩恵を幅広く享受する道はあるのかを探る。
ウィテカーさんは今春の朝日新聞の取材で、IT大手が最新のAI技術を矢継ぎ早に製品に導入する状況を「非常に無責任で無謀な行いだ」と指摘。問題視するのが、一部の巨大IT企業にデータやインフラなどの資源が集中している構造だ。
世界シェア約9割の検索エンジンを提供する米グーグル、40億人近い利用者を持つ米メタなどのIT大手は、無料サービスと引き換えに利用者から膨大なデータを集め、広告などを通じて巨額の利益を得てきた。
ウィテカーさんは、最新のAI技術はIT大手へのデータと富の集中の結果生まれたもので、「中立的でもなければ、民主的でもない。究極的には彼らの利益につながるようにつくられる」と批判。先端AIの進化でますますデータが集中し、「AIと監視モデルの関係はさらに強まる恐れがある」と指摘する。
だが私たちは無料のネットサービスに慣れ、AIも日常生活に深く入り込む。各国ではAI規制の検討が進むが、議論は始まったばかりだ。(サンフランシスコ=五十嵐大介)
■10月9日(月祝) ホール開催+配信
◇13:00~13:50
主催者あいさつ 中村史郎(朝日新聞社社長)
来賓あいさつ メリッサ・フレミング(国連事務次長)
講演(持続可能な未来について)
〈講師〉9月中旬、公式サイトに記載
◇14:00~16:00
「世界の知」と探るAI新時代【第1部】AIからの挑戦状~知性・創造とはなにか
〈パネリスト〉メレディス・ウィテカー(AI開発研究者・シグナル社長)=冒頭講演も=、安宅和人(慶応大教授)、手塚眞(ヴィジュアリスト)▽コーディネーター・長野智子(キャスター)
◇16:20~17:20
里山~自然と文化の交差点 持続可能なくらしとは
〈パネリスト〉久元喜造(神戸市長)、財前直見(俳優)、松村正治(よこはま里山研究所〈NORA〉理事長)ほか▽コーディネーター・山内深紗子(本社くらし報道部記者)
◇17:30~18:30
エコハウス「ほくほく」で私たちは考えた 足もとの行動から世界を変える
〈パネリスト〉原科幸彦(千葉商科大学長)、ほくほくプロジェクト参加者ほか▽コーディネーター・斎藤健一郎(本社文化部be編集部記者)
■10月10日(火) ホール開催+配信
◇10:00~11:30
「世界の知」と探るAI新時代【第2部】2024年変わる世界秩序 新しい時代への視座
〈パネリスト〉岩間陽子(政策研究大学院大教授)、中島隆博(東京大東洋文化研究所長)▽コーディネーター・宮地ゆう(本社GLOBE副編集長)
◇12:00~13:00
劇場の息吹を 舞台演劇の今、そしてこれから
〈パネリスト〉服部真樹(アデランス文化芸能部長)、花總まり(俳優)、小池修一郎(宝塚歌劇団特別顧問・演出)▽コーディネーター・河合真美江(本社文化部記者)
◇13:00~13:15
髪に向き合い55年 「人生100年時代」への航跡
〈講師〉津村佳宏(アデランス代表取締役 社長 グループCEO)
◇13:25~14:25
月へ火星へその先へ 宇宙開発の未来は
〈パネリスト〉土井隆雄(宇宙飛行士)、荒井朋子(千葉工業大惑星探査研究センター所長)▽コーディネーター・小川詩織(本社デジタル企画報道部記者)
◇14:40~15:40
地球に異変 行動したい、でもどうすれば!?
〈パネリスト〉市川團十郎(歌舞伎俳優)、平田仁子(クライメート・インテグレート代表理事)、ジェームズ・ミニー(フェアトレードカンパニー社長)▽コーディネーター・関根慎一(本社くらし報道部記者)
◇15:50~16:50
地球の未来を守る 気候変動対策のためにできること
〈パネリスト〉島村琢哉(AGC取締役兼会長/旭硝子財団理事長)、トラウデン直美(モデル)▽コーディネーター・市野塊(本社科学みらい部記者)
◇17:00~18:00
ポスト・コロナの都市と空間、人のかたち
〈パネリスト〉隈研吾(建築家)、安藤桃子(映画監督)▽コーディネーター・大西若人(本社編集委員)
◇18:10~18:25
半導体産業の動向と当社グローバル戦略
〈講師〉賀賢漢(フェローテックホールディングス代表取締役社長兼グループCEO)
◇18:25~19:25
半導体三国志~日本は生き残れるか
〈パネリスト〉鈴木一人(東京大教授)、高木紀子(富士通先端技術開発本部マネージャー)、山崎怜奈(タレント)▽コーディネーター・奈良部健(本社経済部記者)
■10月11日(水) ホール開催+配信
◇11:00~12:00
自然と人とでひらく 和食の可能性
〈パネリスト〉山田早輝子(フードロスバンク代表取締役)、佐藤祐輔(新政酒造代表取締役)、林亮平(てのしま店主)▽コーディネーター・長沢美津子(本社編集委員)
◇12:10~13:10
問いでつながる 対話するためのヒント
〈パネリスト〉ドミニク・チェン(情報学研究者)、小川公代(英文学者)▽コーディネーター・永井玲衣(哲学者)
◇13:20~14:50
スタートアップという選択肢
〈パネリスト〉落合陽一(筑波大准教授)、米良はるか(レディーフォーCEO)、上野山勝也(パークシャテクノロジー代表取締役)▽コーディネーター・和気真也(本社経済部記者)
◇15:00~16:00
地球沸騰?!~1.5度上昇の世界 私たちはどう生きるか
〈パネリスト〉江守正多(東京大教授)、斎藤幸平(東京大准教授)ほか▽コーディネーター・石井徹(本社編集委員)
■10月12日(木) オンライン配信のみ
◇12:00~13:00
プラネタリーヘルス最前線 気候変動と感染症のいま
〈パネリスト〉渡辺知保(長崎大プラネタリーヘルス学環長)、梅田昌季(SORAテクノロジー副CEO)、長島美紀(マラリア・ノーモア・ジャパン理事)、轟木亮太(NTDsユースの会代表)▽コーディネーター・竹下由佳(本社with Planet編集長)
◇13:10~13:25
「天然水の森」が目指す生物多様性の高い森づくり
〈講師〉風間茂明(サントリーホールディングス執行役員サステナビリティ経営推進本部副本部長)
◇13:30~14:30
ビジネスと人権~つながる世界、つなげる責任~
〈パネリスト〉向井芳昌(JTサステナビリティマネジメント部長)ほか▽コーディネーター・北郷美由紀(本社編集委員)
◇14:35~15:35
2030 日本は「買い」か
小野善康(大阪大特任教授)、林玲子(国立社会保障・人口問題研究所副所長)▽コーディネーター・原真人(本社編集委員)
◇15:40~15:55
カカオに関わる全ての人を笑顔にする明治の挑戦
〈講師〉萩原秀和(明治グローバルカカオ事業本部長)
◇16:00~17:00
もう語学はいらない? AI翻訳が変える世界
〈パネリスト〉ヤロスワフ・クテロフスキー(ディープエルCEO)、玉川透(本社ヨーロッパ総局員)▽コーディネーター・西村大輔(本社GLOBE編集長)
※敬称略。プログラムは変更する場合があります。最新の情報は、公式サイトでご確認ください。
【主催】朝日新聞社
【共催】テレビ朝日
【特別協賛】旭硝子財団、アデランス、神戸市、サントリーホールディングス、JT、フェローテックホールディングス、明治、レゾナック・ホールディングス
【協力】グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン、朝日学生新聞社、CNET Japan、ハフポスト日本版、森林文化協会、千葉商科大学、特別展「和食」
【特別共催】マラリア・ノーモア・ジャパン
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- 【視点】
今年は第一部となる『「世界の知」と探るAI新時代:AIからの挑戦状~知性・創造とは何か』の』コーディネーターを務めます。パネリストがめちゃくちゃ豪華で今からとても楽しみです。AI開発研究者で通信アプリ・シグナル社長のメレディス・ウィテカーさ
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