政府一転、なお強硬姿勢も 学術会議見直し、政権幹部「根っこから」=訂正・おわびあり

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 日本学術会議の組織見直しを盛り込んだ法案の提出がいったん見送られた。学術会議の反発を受けて政府は方針を一転させたが、一方で、会議を国の機関から切り離す強硬な姿勢をのぞかせる。政府と学術会議の隔たりは大きいままだ。▼1面参照

 学術会議が政府に学術会議法改正案の提出を見送るよう勧告した18日、岸田文雄首相と、学術会議問題を担当する後藤茂之・経済再生相は官邸で向き合っていた。2人は法案提出を見送り、20日に表明する段取りを確認し合った。

 学術会議内での改正案の受け止め方について、政府関係者は「政府と対立を深めることを心配する会員も増えていて、一定の賛成も見込めると考えていた」と説明する。だが、予想に反して学術会議の反発は強く、勧告は全会一致で決定された。

 自民党幹部は「変に進めたら世論の余計な反発も招くから」と、首相の判断の理由を解説する。

 ただ、政府・与党内では、国の機関のまま高い独立性を維持しようとする学術会議側に歩み寄ろうとする空気は乏しい。

 後藤氏が示唆した「国からの分離」は、学術会議の組織のあり方に批判的な自民のプロジェクトチーム(PT)が2020年12月に「新たな組織として再出発すべきだ」とした提言を受けたものだ。PTでは、学術会議が科学研究の軍事利用を否定する立場をとり続けていることへの批判が根強い。PTの議員の一人は「金は出せ、口は出すな、では国民が納得しない」と批判。「完全に国から切り離すべきだ」

 政権幹部は、閣議決定を予定していた改正法案について「厳しいことを言う自民党の人たちとも調整をして、政府との間でギリギリのラインで法案をつくった」と説明。「それをダメだというなら、もう根っこからやるしかない」と、組織の大幅な見直しにまで踏み込む考えを示唆する。(阿部彰芳)

 ■学術側、根強い不信感 任命拒否問題への反発続く

 18日まで行われた学術会議の総会では、政府の学術会議法の改正法案が「学術の独立性」を脅かす内容だとして懸念が噴出。法案提出の見送りと、日本の学術全般の見直しに向けた開かれた協議の場を求める「勧告」を全会一致で決めた。

 法案提出見送りについて学術会議の関係者は「サプライズだ」と歓迎するが、警戒感も強い。

 そもそもこの問題の発端は、20年に当時の菅義偉首相が学術会議の会員候補6人の任命を拒否したことだ。学術会議は、理由説明と6人の任命を求め続けているが、岸田政権に替わっても「任命問題は決着ずみ」(後藤氏)との立場を崩さず、説明もない。その間、政府・自民党内から、論点をずらす形で、学術会議の組織のあり方が俎上(そじょう)にのぼってきた。新型コロナ禍などで学術会議が政府に対する助言機能を果たしていないとする不満や、軍事研究に否定的な声明を出したことへの反発が背景にある。

 自民党のプロジェクトチームは、20年12月、政府への提言で学術会議を国の組織から分離させるとし、「独立行政法人特殊法人公益法人などが考えられる」とした。

 これに対し学術会議は21年4月に自己改革案を公表。国の機関でなくなる余地に触れつつ、「現在の国の機関を変更する積極的理由を見いだすことは困難」と結論づけた。

 「切り離されてもやむなし」との意見は学術会議側にもある。国の機関にとどまる限り、今後も今回のような騒動がふりかかる懸念があるからだ。内閣府によると、先進各国の代表的な学術機関は、非政府組織(米)、公益団体(英)、特殊法人(仏)など、いずれも政府から独立している。一方、会員選考は各国とも政府が介入せず独自に行う方式で、活動費の一部には政府資金があてられている。

 学術会議は、国を代表する学術団体として、(1)国の代表機関としての地位(2)政府からの諮問や政府への勧告を行う「公的資格」(3)国家財政による安定した財政基盤(4)活動面での政府からの独立(5)会員選考の自主性・独立性、の五つを要件として挙げる。それに照らすと可能性があるのは特殊法人化のみとしている。

 ただ、新たな法律を作って業務やルールを定めることが必要となる。政府からの独立性をどう書き込むか、現在国費で賄っている年間約10億円の運営費など財政基盤を維持できるのかなど課題が多い。

 学術会議関係者は、「(後藤氏の)話しぶりからは、分離を結論とすることが決まっているようにも聞こえ、無理筋の議論にならないか懸念がある。そもそも任命拒否問題の説明責任を果たしていない」と話す。(嘉幡久敬、桜井林太郎)

 ■日本学術会議の任命拒否と組織改革をめぐる経緯

<2020年10月1日> 菅義偉首相による会員候補6人の任命拒否が発覚

<10月2日> 学術会議が、説明と6人の任命を求める要望書の提出を決定

<12月11日> 自民党プロジェクトチーム(PT)が学術会議を国から分離させることが望ましいとする提言を提出

<2021年4月22日> 学術会議が自己改革案を公表

<10月4日> 菅首相が退陣し、岸田文雄内閣が発足

<2022年12月6日> 政府が学術会議の改革の方針を公表。国の機関として残す一方、会員選考に第三者を関与させる内容

<2023年4月18日> 学術会議総会で、政府に組織改革の法案提出見送りを求める「勧告」を全会一致で決議

 <訂正して、おわびします>

 ▼21日付総合3面の学術会議法改正案提出見送りの記事につく年表で、政府が学術会議の改革の方針を公表したのが「2021年12月6日」とあるのは「2022年12月6日」の誤りでした。

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